■保護プロジェクトと更生への願い、新しい家族との出会いも
鈴木さんと大河の散歩のスピードは早い。鈴木さんは「このテンポじゃないと、秋田犬は運動にはならない」と話す。しかし散歩を急ぐ理由はそれだけではない。
鈴木さんのもとには、大河を含め11頭の秋田犬がおり、ほぼ1人で世話をこなす。365日が犬中心の生活だ。11頭のうち、6頭はブリーダーなどから譲り受けた犬。あとの5頭は、飼い主が何らかの理由で手放した秋田犬だ。
ゴンは飼育放棄から救い出され、現在11歳。噛みつき事故を起こしてしまったりんごは12歳。8歳の大河はここでは若手だ。
行き場を失った秋田犬に、生きる選択肢を。そうして始まったのが、秋田犬の保存・保護を目的とするプロジェクト「ONE FOR AKITA」だ。その活動を資金面で支える地元ケーブルテレビ局の敷地内にある犬舎で11頭は暮らしている。
プロジェクトが始動するきっかけとなったのは、秋田犬のもも・10歳の存在だ。「この子が蔵王で捨てられていて、1年くらい仙台のシェルターにいたんだけど。最初この子を引き取った時、表情が全然なくて能面みたいな顔だったの。それが、半年ぐらいしたら全然変わっちゃって。秋田犬も変わるんだっていうのが私の中でイメージになかったから」。
秋田県では2015年から、犬種ごとの殺処分頭数をまとめている。2018年にONE FOR AKITAが立ち上がるまでの3年間、最も多く殺処分されていたのが秋田犬だった。
鈴木さんは「全国的にみても、秋田犬が噛みつき事故を起こしたというと保健所に入ります、それで殺処分して終わります、という事例が結構ある。向き合い方をちゃんとすれば、人間で言うところの“更生”ができる。噛みつきが直るということをちゃんとわかってもらって」と訴える。
そんな鈴木さんも、以前は秋田犬が苦手だった。「仕事で例えばシャンプーするとなった時に、10頭いれば8、9頭噛む。『ちょっと爪切るよ』って手を持っただけでウワッと来るし。もう私の中では“秋田犬=噛みつく”というイメージしかなくて」。
秋田県の大きな観光資源でもある秋田犬。訪日観光客は「Beautiful Dog。とっても可愛いですね」と話す。
忠犬ハチ公で知られる忠誠心や賢さは、向き合い方を誤ると他者への攻撃性として表れてしまうほどの強さがある。飼い主の意識次第で、秋田犬は変われる。それを証明しているのは、鈴木さんに保護された秋田犬自身だ。
CAN秋田ケーブルテレビのインターンシップでの一幕。インターン生が「可愛い」と手を出すと、りんご(秋田犬)は近くに寄って行った。これに鈴木さんは「優しい人認定だな。秋田犬ってね、優しいか優しくないかわかるから」と話した。さらに「こう見えて、前科3犯。3回噛みつき事故を起こして保健所に収容になった子です。りんごさん、ちょっと都合悪いからって横向かないで」と笑った。
鈴木さんが望むのは、彼らが幸せに生涯を全うすること。そのためには、自分の元から離れることも1つの方法だと考えている。「本音を言えば、今11分の1の愛情じゃない。私1人しかいないからさ。それより120%ひとり占めできる愛情があった方が犬にとってはいいと思うんだよね」。それはONE FOR AKITAからの卒業、そして新しい家族との出会いだ。
5年前、北秋田市在住・藤原武治さんの家族になった秋田犬の凛(りん)。長毛の秋田犬にも3年前から公認で血統書が発行されるようになったものの、「標準」とされるのは毛の短い秋田犬。長毛であることが、飼い主が手放す理由の1つとなっていた。
藤原さんは「価値がすごく低いっていうのは、鈴木さんからうかがっていて。こんなに可愛のになんか…」と語る。さらに「たまに鈴木さんのところに伺うんですけど、飛び跳ねて、尻尾ぶるんぶるんって、すごく喜ぶんですけど。なかなか家族に対してそういう顔を見せる時がなくて。やっぱり鈴木さんが1番好きなんだなぁって感じる時はありますね」と明かす。
1人の飼い主に強く忠誠を誓う秋田犬。信頼関係を、もう1度新たな家族と築く事は容易ではない。鈴木さんは「みんなちょっと誤解していると思うんだけど、私があなたを選んだんじゃなくて、あなたに私が選ばれたのよ、の方がいいんだよ。関係としては」と語る。
ONE FOR AKITAがプロジェクトを始めて8年。これまでに6頭の秋田犬が卒業し、新たな家族を見つけている。
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