優勝候補が、下馬評通りの実力を見せつけた。6月18日、さいたまスーパーアリーナ・コミュニティアリーナで開催されたK-1。スーパー・ウェルター級(70kg)の新王者を決めるトーナメントで優勝したのは、ベラルーシから初参戦したチンギス・アラゾフだ。
(圧倒的な実力でチャンピオンベルトを巻いたチンギス)
左右に構えをスイッチしながら攻撃、パンチも蹴りもバランスよく繰り出すことができる。加えて柔らかい動きでディフェンスも巧み。単なる豪腕ファイターでも、派手さに欠けるテクニシャンでもない。強くて巧い、ファイターとしての完成形にも見えるチンギス。
1回戦で日本の中島弘貴をヒザ蹴りとアッパーでダウンさせ、KO勝ちすると準決勝ではサウスポーからの右フック一発で完全KO。相手はKrush王者のジョーダン・ピケオーだった。ピケオーは日本人選手を次々と下してKrush王座を守ってきた選手。にもかかわらず完敗を喫してしまうのだから、やはりチンギスのレベルは頭一つ以上抜けているということか。
決勝では、外国人を連続して倒し、勝ち上がった城戸康裕と対戦。城戸は常に世界を見据えて闘ってきた成果をここで出し、大きく株を上げた。この決勝戦でも、1ラウンドに左フックでダウンを喫しながら2ラウンドに「練習してきた」という左ストレートでダウンを奪い返してみせた。
だが、この反撃にもチンギスは慌てなかった。曰く「試合だからこういうこともある」。最終3ラウンドには左フック、右ストレートでダウン奪取。この試合だけKOを逃したものの、文句なしの判定勝利だ。おそるべき新王者の誕生である。
「最初のローキックをもらった瞬間に“なんだこれは”と。クソ重かったです。チンギスはちょっとレベルが違えなと思いましたね」チンギスと闘った衝撃を、城戸はそう振り返った。試合を見ていた武尊は、チンギスのパンチを絶賛している。「脱力がうまくて、インパクトの瞬間だけパワーが入ってる。あの打ち方は真似したいですね」
セミファイナルが盛り上がりに欠ける展開となり、「観客の期待に応えるためにも面白い試合をしなければと思った」というチンギス。そうしたプロ意識も含め、K-1王者にふさわしいと言えるだろう。
K-1と言えば、旧体制ではピーター・アーツ、アンディ・フグをはじめ人気外国人選手が牽引してきた面もある。このチンギスには、新生K-1のエース外国人としての期待がかかる。そのためにはライバルが必要で、それを見つけてくるのが難しそうではあるのだが。
文・橋本宗洋