中学生棋士・藤井聡太四段の登場で日本中の注目を集めている将棋界。同じく頭脳ゲームである麻雀は、対局の仕組み、タイトルの名前など、将棋と似ている部分は多いが、世間のイメージや「プロ」の意味合い、活動は大きく異なっている。将棋界のようにプロの地位を高めるにはどうすればよいか。今年5月に日本将棋連盟の理事に就任した、鈴木大介九段(42)に話を聞いた。
将棋界には約800年の歴史があり、棋士がプロとして対局料を受け取れるようになってからだけでも100年近くの歴史がある。「麻雀界との最大の違いはプロの人数です。将棋界も年々増え続けてはいますが、それでも150人前後です。関東と関西に分かれてはいますが、基本的には団体もひとつ、プロ試験もひとつです」。麻雀界には大小さまざまなプロ団体が多数存在している。「将来的には徐々に減り、強い団体が残っていくのが必然ではないでしょうか」と見解を示した。将棋のプロ棋士は基本的に半年に2人、年間4人しか誕生しない。プロ雀士は各団体に人数制限はなく、総数は将棋界の10倍以上にもなっている。
麻雀ではプロ、アマ問わず統一ルールがなく、団体や大会によっても異なるルールが採用されている。将棋は持ち時間の差はあっても、ルール自体は変わらない。「地方によってもいろんなルールがあるのが麻雀の歴史であり、良さなのかもしれません。ただプロの対局では統一ルールを作ったほうが、ファンにとっては(実力の)ピラミッド構造がわかりやすく伝わると思います」と、ルールの整備を指摘した。
一方で、プロを支えるアマチュアファンの意識改革も大切だと力説する。「将棋指しは無料では絶対に指しません。アマチュアの方と指す場合は、稽古将棋しかやりません。ここは麻雀界との最大の違いです。麻雀の場合は、プロとも気軽に打てる場があるので、アマチュアの方はプロに教わるという気持ちが欠けている気がします。もっと教わる気持ちが強くなれば、業界自体の発展にもつながっていきます」と説いた。目先の勝負であれば、アマがプロに勝ててしまうのも麻雀だが、対局を重ねれば自然と結果はプロが上位に来る。将棋に限らず、プロが無料で戦うこと自体珍しいだけに、むしろ麻雀の方が特異だ。
将棋界には“真剣師”と呼ばれる指し手が賭け将棋を行っていた時代があった。今なおギャンブルのイメージが強い麻雀と同様だ。ギャンブルイメージからの脱却には、何が大きく作用したのだろうか。「対局解説者の確立が一番大きかったと思います。将棋の場合、序盤では対局者の人柄やエピソード、中盤では将棋の内容、終盤では一定の結論を話していきます」。単なる勝敗だけでなく、高度な頭脳戦が繰り広げられていることを伝え続けた結果、頭脳スポーツとしての認知が高まり、ギャンブルである必要がなくなってきた。
麻雀対局にも、工夫の余地はまだまだある。「麻雀も解説者の良し悪しで印象も理解度も変わります。今の主流だと、リーチをかけた時に、待ち牌の残り枚数を数えてくれますが、まったく言わないのもひとつの手です。待ち牌の枚数が多いからアガれるわけでもないし、たとえ待ち牌が山になくてもアガれるときもあるわけですから」。対局番組が飛躍的に増えた麻雀界でも、様々な角度からファンを楽しませてくれる解説者を確立していけば、競技としての成熟度は増していくと見ている。
スポンサーの開拓も必要不可欠だ。「将棋と麻雀の共通部分は、生産性がないことです。だからこそ将棋なら指すこと、麻雀なら打つことで、ファンの人に夢を与え、楽しんでもらえることが何よりも大切です」と、視聴者を楽しませる工夫が業界の発展につながるという。頭脳スポーツとしての精度があがり、ギャンブルイメージが薄れ、スポンサーがつく。将棋界が築いたプロの歴史が、麻雀界でも再現されることを、麻雀ファンの1人として望んでいた。
麻雀の腕前も一流と言われる鈴木九段は、7月1日からAbemaTVの麻雀チャンネルで始まった「麻雀駅伝2017」に、アマチュア連合の一員として出場する。「棋士が長けているところは、洞察力と人読みです。そこを駆使しながら、チームの一員として、迷惑をかけないように打っていきます」と意気込みを語った。謙虚で真摯な勝負師の表情は、麻雀で稽古をつけてもらえる喜びに満ちていた。【福山純生】
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