将棋は頭脳戦・神経戦のゲーム。勝負をする者としては相手に余計な情報を与えたくもなく、また礼儀上の問題もあるため、喜怒哀楽をはじめとした仕草は対局中にはなかなか見られるものではない。それでも棋士もまた人間。対局中に思わず見せてしまう仕草やくせがあるものだ。有名なものからチェックしておきたいものまでいくつかご紹介する。
◆羽生善治三冠の「震え」
タイトル獲得が100期に近い羽生善治三冠。しかしどれだけ勝ってもなくならないのが、勝利が見えた時の手の震えだ。勝ちを確信したときに出ると言われており、テレビ将棋やAbemaTV(アベマTV)などのインターネット配信の将棋でも見られる。解説者も「今、羽生先生の手が震えましたね」などと指摘することが多い。
書籍「羽生善治 闘う頭脳」の中で「勝ちを読み切ったものの、最後まで油断してはいけないと思ったときに起こる現象のようです」と語っている。緊張の中で勝ちが見つかり、兜の緒を締め直している時の動きなのかもしれない。
◆若かりし日の「羽生にらみ」、藤井四段も相手をチラチラ
羽生三冠が若かりし日に話題になっていたのが「羽生にらみ」。集中力が高まりすぎて相手をにらんでいるように見えたとも言われている。デビュー以来29連勝で日本全国を熱狂の渦に巻き込んだ藤井聡太四段も、対局中にチラチラと対局相手を見ているように映る。
◆ひふみんは緊張したときの「空咳」
先日、引退した加藤一二三九段は様々なエピソードを持っているが、複数の棋士が語っているのが緊張時の「空咳」だった。残り時間に変化がないのに何度も何度も「あと何分?」と聞いたというエピソードも有名だが、空咳はもっと前からのくせだったらしい。
◆投了時の仕草にも注目
終局間近になると喉の調子が気になるのが不利な側の棋士。投了時の宣言としては「負けました」「ありません」などの言葉があるが、これらの言葉を、声をかすらせずに発声しようという気づかいをするのも繊細な棋士らしい仕草ではないだろうか。
特に誰が、ということではないが、映像のある対局で投了間近の様子を見てみよう。お茶などを口に含んでから投了するシーンが多く見られる。投了するほど、飲み物を口に含んだり顔を拭ったり、すこし身なりを整えるものだ。見方は良くないかもしれないが、切腹する武士が白装束になるような散る者の美学を感じずにはいられない。
佐藤天彦名人はタイトル戦での投了時にリップクリームを唇に塗ったことがある。将棋というゲームは基本的に敗者がその対局を終了させる権利を持っている、とも言える。そのときの仕草を注意してみて見るのも、楽しみ方の1つだ。
相手をにらむ姿や駒音・手つきが変わることで何かしらの感情が顔を出すことがある。くせや棋士の感情が見られると対局はひときわ面白くなる。そういうシーンを踏まえ、対局シーン・投了シーンを見逃さずに対局を楽しみたいものだ。【奥野大児】
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