家族一丸となって将棋にかけた棋士がいる。佐々木大地四段(22)だ。地元は長崎県対馬市。自然豊かな島で育った佐々木大地四段は、対馬出身としては初のプロ棋士となるため、家族ごと横浜市に引っ越し奨励会入りしたというエピソードを持っている。「対局姿を地元の人に見ていただいて、満足してもらえるような将棋が指したい」という若者は、プロ入り前も、プロ入り後も苦労続きだった。

 対馬は九州地方と韓国の間、対馬海峡に浮かぶ「国境の島」。佐々木少年は自然が豊富で、漁業が盛んな場所で育った。「いろんなものが釣れたり、取れたりするんです。今でも対馬に帰省する時は、魚釣りをしています」。3歳ごろ、父と祖父が将棋をしている様子を見て覚えると、めきめきと上達。2004年には岡山県倉敷市で行われた「全国小学生倉敷王将戦」の低学年の部で優勝するまでになった。

 中学1年生になった佐々木大地四段に、大きな転機が訪れる。奨励会入りだ。プロを目指すため、知人のつてで深浦康市九段(45)に弟子入りすることになった。指導は電話などでも受けられたが、奨励会で戦うためには対馬から通うわけにも行かない。そのため佐々木家は、一家で横浜市に引っ越した。「父の仕事も大変だったと思います。自分のために頑張ってくれたというか、本当に感謝しないといけないですね。奨励会の試験には絶対に合格しないといけないと思いましたし、プロを目指すことが本格的に身近に感じました」と、家族の大きな期待を背負って戦い続けた。

 念願のプロ入りにも、山が待っていた。プロ入り直前の三段リーグで好成績を収め、四段昇段=プロ入りの資格を得たものの、規定により本来のスタート地点である順位戦C級2組入りがかなわなかった。下位リーグにあたるフリークラスからの出発となった佐々木大地四段は、「成績のいい連続30局以上の勝率が6割5分以上」という条件を満たし、晴れてC級2組へと昇級。わずか10カ月半だったとはいえ、やっとの思いで本来のスタート地点に立つことができた。「フリークラスのころは、順位戦の検討になかなか行きづらいというか、あまり行く気が起きなかったですね」と振り返った。

 晴れてプロとして活躍し始めた佐々木大地四段は、2016年度の勝率が全棋士中で堂々の6位。9月7日には、新人王戦の対局で、史上最多の29連勝を達成した中学生棋士・藤井聡太四段(15)を下し、確かな実力を見せつけた。そんな佐々木大地四段には、師匠の深浦九段から、プロ入り祝いとしてスーツが2着贈られた。「順位戦に参加するようになって、やっと一人前ということで師匠に買っていただきました。そのスーツを着ると本当に勝率がいいんです」と、ここぞという対局で着る勝負スーツになっている。

 遠く離れた地元・対馬には祖母をはじめ親戚が暮らしている。テレビやネットでの対局企画となれば、自分の活躍ぶりを対馬まで届けることができる。「一生懸命にやって、見ていただいている方が満足するような、見てよかったと思ってもらえるような将棋が指したいですね」とほほ笑んだ。苦労の末にたどり着いたプロの舞台。気合を込めた駒音は、きっと対馬まで届く。

 ◆佐々木大地(ささき・だいち)四段 1995年5月30日、長崎県対馬市出身。深浦康市九段門下。棋士番号は306。2008年9月に奨励会入り。2016年4月1日に四段昇格を果たしプロ入り。棋風は居飛車党。AbemaTV「若手VSトップ棋士 魂の七番勝負」では、第1局(9月30日放送)で屋敷伸之九段と対戦する。

(C)AbemaTV


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魂の七番勝負~若手VSトップ棋士~ 第一局 | AbemaTV(アベマTV)
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