自民党は2日、衆議院議員選挙で掲げる公約を発表した。『この国を、守り抜く。』をキャッチフレーズにしたその内容は、
- (1)北朝鮮への圧力強化
- (2)アベノミクス加速によるデフレ脱却
- (3)生産性革命による所得向上
- (4)人づくり革命による保育・教育無償化
- (5)震災復興を含む地方創生
- (6)憲法改正(自衛隊の明記など)
の6本柱からなる。先月25日の解散表明会見で、安倍総理が3番目に挙げた「北朝鮮への圧力強化」は、公約のトップだ。岸田政調会長は会見で「我が国の上空を通過する弾道ミサイルの相次ぐ発射や核実験の強行など、北朝鮮の脅威が目の前に迫っており、意味ある対話のための圧力を強め、強い外交力で断固、国民を守り抜くこと。これを明記した」と説明している。
3日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、"ヒゲの隊長"こと、元幹部自衛官でもある外務副大臣の佐藤正久・参議院議員(自民党)に、北朝鮮情勢、そして自衛隊明記を目指す憲法改正の項目について話を聞いた。
■「秘密保護法、安保法制がなかったらと思うとゾッとする」
テレビ朝日政治部の藤川みなよ官邸キャップは「今この時期に解散をしなければいけないと総理が決断をした一番の要素は北朝鮮情勢だった。消費税の使い道を変えるというのは国会で議論を続けていくことも可能だし、解散をしなければいけないほどの問題ではなかった。その意味で、今回の並び順は総理の思いが強く滲んだ形だ」と解説、政治学者の佐藤信氏は「公約の中の順番が下がっているのは消費増税。希望の党が増税の凍結を打ち出しているので、争点にするのは得策じゃないという判断したのではないか。増税を掲げて選挙に勝つというケースはほとんどない。よって、今までの業績を評価してもらおうということではないか」と推測した。
佐藤副大臣は「1番から6番と、特に優劣があるわけでもなくて、それだけは誤解のないように」としながらも、「まさに"国難"という時期。総理は会見で北朝鮮対応と少子化の2つの観点で『守り抜く』と話したが、党としても、やはり北朝鮮対応を前面に出して政策を訴える、ということに決定したというふうに聞いている。選挙戦を通じて、いかにこの国難に立ち向かうか、しっかり議論していきたい。他の党も、この国難からどう国民を守るのか、打ち出して頂きたい」と話す。
しかし1日には安倍総理が国際会議への出席、菅官房長官が地方遊説と、2人が同時に官邸を離れる事態が発生。さらに、公示日の10月10日は、朝鮮労働党の創建記念日にあたる。アメリカ軍と韓国軍はこの日の前後に北朝鮮のミサイル発射の恐れがあるとみている。そんな中で選挙モードに突入した政府・与党に対する疑問の声も上がっている。
佐藤副大臣は「安倍総理と菅官房長官が官邸に同時にいなかったのは4時間だけ。意思決定機関としての国家安全保障会議、4大臣会合も、最低2人がいれば参集できる。この日は外務大臣と防衛大臣は東京にいて、何かあったらすぐに官邸に行ける態勢を取っていた。意外に知られていないのは、解散で衆議院議員の身分はなくなるが、大臣、副大臣、政務官はそのまま。私がいる外務省も、河野外務大臣が東京を離れる時は、私が副大臣として東京に残っている。重要影響事態の場合、自衛隊は国会の承認がないと行動できないが、衆議院は解散しているときは参議院が意思決定をする仕組みになっている。北朝鮮対応は官邸だけがやっているのではなく、二重三重でやっている」と説明した。
「国会議員になって11年目だが、その前に自衛隊を25年経験させてもらった。その私の感覚から言っても、日本を取り巻く安全保障環境は、この35年で今が一番厳しい。参議院の特別委員会で、他国からもらった情報が漏れないよう担保する特定秘密保護法を作らせてもらった。外務副大臣として、色々な国からの北朝鮮に関する情報がないと、この厳しい情勢に立ち向かっていくのは難しいと感じている。また、平和安全法制でアメリカといかに連携して日本を守るかという法律も作らせてもらった。希望の党に行った多くの民進党の議員の方々が、SEALDsの方、共産党の方々と"安保法案は憲法違反、白紙撤回、廃案"と訴えていた。しかし、これらの法律がなかったらと思うとゾッとする」と、批判を浴び続ける秘密保護法、安全保障法制の意義を強調した。
藤川氏は佐藤副大臣の話を受け「特定秘密保護法も安保法制も成立した際に強行採決だという指摘があり、安倍政権は大きく支持率を下げながらも成立させた。しかし、政権の中からは日米の連携に役立っているという声も聞こえてくる。そういう意味で、今の局面にどう対処するかということだけではなく、安倍政権が政権を奪還してからの5年間で、北朝鮮への対応、日米の連携がどう変わったかを選挙で問いかけようとしている」とした。
■憲法に明記されるだけで、自衛隊精神的な支柱になる
今回の自民党の公約について、もう一つ注目されるのが、自衛隊の明記など4項目を示し、初めて前面に出してきた「憲法改正」だろう。
最も議論を呼ぶであろう9条、そして自衛隊の問題だけに着目しても、各党のスタンスは様々だ。自民党とは連立与党を組んでいるものの、公明党はより慎重な姿勢を打ち出している。また、9条改正を強く訴えるのが日本維新の会、9条に限らない議論が必要とする希望の党、そして、徹頭徹尾"護憲"という姿勢で、自衛隊は違憲で、将来的には解消すべきだとする共産党と、スタンスは様々だ。現時点で立憲民主党の姿勢は示されていないが、藤川氏は「メンバーの顔ぶれからすると、安倍政権下での憲法改正には長く反対してきた方たち」と、事実上"護憲"の立場を取るのではないか、と見ている。
「これまで、憲法改正=9条改正という話になってしまい、なかなか中身の議論に入れなかったが、教育無償化や合区の解消ということであれば、党の垣根を越え合意できる部分があるのではないかということだ。一方、憲法を改正したくない人たちは、みんなが共通の認識を持ちやすいところで実績を作り、"憲法改正って怖くないんだ"という経験をさせておいて、気づいたら9条を改正している。そういうのを許してはいけないと思っている」(藤川氏)。
自衛隊出身の佐藤副大臣は「私が自衛隊に入ったのは昭和58年。自衛隊への批判が少なくなってきた時期だったが、それでもやはり制服を着て街を歩くのは難しかった。今でも、一部の地域では駐屯地外での訓練ができない。昔は学校で自衛隊員の子どもに対するいじめがあったり、"憲法違反""税金泥棒"という言葉をかけられたりしていた。人間って、自分のやっていることが否定されると辛い。ぐさっと胸に刺さるような思いがする」と話す。
9条への自衛隊明記についても、「自衛隊にはいざとなれば自分の身を犠牲にして国家・国民を守る、と、警察・消防よりも厳しい宣誓をして入隊する。いざという時には、名誉と誇りが最後の拠り所になる。私も連隊長のとき、1000人の部下たちに厳しいトレーニングをしてもらっていたが、君たちの汗が日本の抑止力になるんだ、頑張れ、歯を食いしばれと言っていた。憲法に自衛隊が明記されるだけで、100点満点ではないが精神的な支柱になる」とその意義を強調する。
「民主党に政権が移った際、インド洋のテロ対策で海上自衛隊が給油支援の延長ができなくなり、撤収しなければいけなくなった。隊員たちは日本では"憲法違反だ"と言われ、現地では"何で帰るんだ、何でアメリカの若者が命をかけて日本の油を守らないといけないんだ"と言われてきつい思いをした。法案が再可決され、再び派遣されるとき、司令官は政治家やマスコミ、家族がいる前で"憲法違反と言われた我々にも意地と誇りがあります。日本のため、世界平和のために頑張ってきます"と言ったのを私は聞いた。相当な思いがあったんだと思う。だから、記者会見で自衛隊の明記について問われた河野統合幕僚長が"個人的な意見として、ありがたい"と答えた、その言葉に全て表れているような気がする」(佐藤副大臣)。
佐藤副大臣によると、9条改正は希望の党の小池代表もこだわっている点だという。「こういう形になるとは思っていなかったが、実は10年前、私が選挙に出た時、第一声をお願いしたのが、当時防衛大臣だった小池代表。その後、中東政策も一緒にやってきた。安全保障の考え方はしっかりされている方だ」と、憲法改正で協力関係が築ける可能性を示唆した。
選挙戦で北朝鮮問題と安全保障そして憲法改正について、どのような議論が展開されるのか、注目だ。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)