今年5月、増田康宏四段(19)がWEBサイト「将棋情報局」内で答えたインタビューは将棋界やファンの間で話題になった。「詰将棋、意味ないです」発言もさることながら「矢倉は終わりました」とのひと言は大きな衝撃を与えた。
「矢倉」は将棋の戦型のひとつ。古来より指されており「将棋の純文学」とも称されている戦い方だ。伝統的なスタイルだけに、現代の将棋界では主にベテランが得意とする。矢倉は居飛車の戦型のひとつだが、振り飛車党である藤井猛九段でさえ「藤井矢倉」というオリジナルの指し方を創案し、武器として用いてきた。ゆえに「矢倉は終わりました」のインパクトは強烈だったが、約半年の時間が経過した今、かのインタビューは衝撃ではなく「先見の明」という視点で語られるようになっている。
「矢倉は終わりました」と同時に、増田四段はインタビューの中で「得意戦法は最近だと雁木(がんぎ)です」とも語っている。現状、さすがに矢倉は終わったと断言できるところまではいっていないと思われるが、矢倉に代わる戦型として雁木が大注目されている。注目されるばかりか、若手からトップ棋士まで公式戦で指すようになった。10月28~29日の竜王戦七番勝負第2局でも挑戦者の羽生棋聖が採用、勝利を収める原動力にしたばかりだ。
やはり古くからの戦型で、近年は指されることが少なくなっていた雁木だが、コンピュータソフトが類型を指すようになったことで再評価されるようになった。バランスに優れ、柔軟性に富んでいることは最近数か月の実戦において証明されたと言っていいが、5月の時点ではまだ異論とみられていた。増田四段の現代感覚がいかに優れていたかを物語っている。
インタビューの翌月は対局でも注目を浴びることに。6月26日、藤井聡太四段が歴代新記録の29連勝を樹立した一局の相手となったが、実は藤井四段に先んじて「天才」と言われたのが増田四段だった。2012年、中学3年時に奨励会三段に昇段し、初参加の三段リーグでいきなり12勝6敗の好成績を収めた。あと2勝していれば、5人目の中学生棋士となっていたのは藤井四段ではなく増田四段だったのだ。
2016年、今年の新人王戦では連覇を達成した。1994~95年度の丸山忠久九段、96~97年度の藤井九段以来3人目の連覇者。いかに力が本物かお分かりだろう。インタビューでの率直な物言いが話題になったが、実際の本人は穏やかで気さくな好青年。ウソのない性分なのだろう。「魂の七番勝負」で対局が放送される11月4日は、20歳の誕生日。三浦弘行九段を相手に「大人の将棋」を見せるかどうか。まずは戦型選択に注目していただきたい。
◆増田康宏(ますだ・やすひろ)四段 1997年11月4日、東京都昭島市出身。森下卓九段門下。棋士番号は297。2008年9月に奨励会入り。2014年10月1日に四段昇格を果たしプロ入り。2016年度、2017年度と新人王戦を連覇。AbemaTV「若手VSトップ棋士 魂の七番勝負」では、第6局(11月4日放送)で三浦弘行九段と対戦する。
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