横綱日馬富士が暴行事件の責任を取る形で昨年11月場所直後に引退。年が明けた一月場所は6場所ぶりに3横綱体制となったが、残された横綱もそれぞれ三者三様、綱を張った者ならではの責任、重圧を背負って土俵に上がらなくてはならなかった。

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 4場所連続休場明けの鶴竜は進退が懸かると言われていたが、初日から圧倒的な強さで白星を積み重ね、進退問題はいつの間にか吹き飛んでしまった。盤石な相撲で中盤までは無傷の10連勝。復活優勝は濃厚かと思われたが、11日目から4連敗と大失速し、賜盃は平幕の栃ノ心に譲ることになった。

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 鶴竜とは対照的だったのが稀勢の里だ。場所前の横綱審議委員会による稽古総見は内容的に“惨敗”。「15日間元気でやれないなら休んだほうがいい」と北村正任委員長からは“猶予”を与えられていたが、これを振り切る形で出場した1月場所は前場所に続き、3日連続の金星配給という87年ぶりとなる不名誉な記録を残し、6日目から休場。稀勢の里の休場はこれで5場所連続となってしまった。

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 批判の対象になっていた張り手やかち上げの実質的な“封印”を余儀なくされた白鵬は、どこか立ち合いに迷いが生じているようにも見えた。相撲ぶりも精彩を欠き、5日目から両足親指の負傷を理由に休場したが、一連の騒動ではすっかりダーティーなイメージがついてしまうなど、ケガの影響よりも精神的な部分で相撲を取れる状態ではなかったような気がしてならない。

 一月場所千秋楽翌日、横綱審議委員会の定例会が開かれ、北村委員長は3横綱について言及。「進退をかける場所は乗り越えた」と鶴竜には一定の評価を与える一方で、稀勢の里に対しては「同じことが繰り返されるようなら、そこで考えないといけない」と次に出場する場所で途中休場となれば、進退問題に発展する可能性を示唆した。また、張り手やかち上げを出さなかった白鵬について「横綱としてあるべき相撲の形、姿を考えていた。引き続きやってほしい」と今後に期待を寄せた。

 番付最上位の横綱はいくら不成績が続いても地位は下らないが、その先にあるのは引退しかない。また、いくら他を圧倒するほどの強さを誇っても、立ち居振る舞いに問題があれば、その座は安泰とは言えない。そこが横綱と他のスポーツのチャンピオンの大きな違いであろう。

 横綱推挙状の文面には「品格、力量抜群に付、横綱に推挙す」とある。つまり、ただ強いだけでは横綱にはなれないということだ。品格が力量より先に挙げられているのは、強さよりも同等かそれ以上と位置づけられているからだろう。

 相手を失神させたり、眼窩底骨折に追い込んだりしたこともある、顔面を狙ったかち上げを駆使した白鵬の取り口は、著しく品格を欠いているのは論を待たない。北村横審委員長が指摘する点もまさにそこだ。再三、厳重注意を受けてきた駄目押しや、十一月場所で見せた自身の取組に自ら物言いをつける“愚挙”も言語道断。

 同じ横綱でも実績面では足元にも及ばない稀勢の里がこれだけ人気を博しているのは、単に19年ぶりに誕生した日本出身横綱だからというわけではない。ファンは真摯に土俵に打ち込む姿勢に胸を打たれ、正々堂々と相手の挑戦を真っ向から受け止める相撲ぶりに心動かされるのである。そこに日本人が長い年月をかけて育んできた理想の横綱像を見出しているからこそ、不本意な成績が続いても復活を信じて待ち続けるのだ。

 それぞれの命題を背負う横綱陣が、若手が台頭し6年ぶりに平幕優勝者も出た昨今の土俵の覇権をどう取り戻すのか。結果だけでなく、その手法も問われている。【荒井太郎】

(C)AbemaTV

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