13日の金曜日。夜、都内ホテルで行われた第3期叡王就位式で高見泰地叡王(25)は多数の来場者の前で宣言した。「これからも高みを目指して頑張ります!」。決まった。一同笑顔。一同拍手。新タイトルホルダーは人に愛される天性のキャラクターを持つ男である。
持ち時間各5分、1手指すごとに5秒が加算される「フィッシャールール」を採用した将棋の超早指し棋戦「AbemaTVトーナメント Inspired by 羽生善治」を観戦体験は、既存の将棋対局とは大きく異なる。サッカーW杯決勝を3倍速で眺めるような疾走感の中、プロ野球オールスターゲームのようなお祭気分も味わえる。真夏にふさわしいエンターテイメントである。
7月15日から放送が始まる予選Cブロックに登場し、本戦トーナメントへの2枠を争うのは阿久津主税八段(36)、永瀬拓矢七段(25)、佐々木勇気六段(23)、高見叡王の4人。高見叡王はA級棋士の阿久津八段と1回戦を戦う。タイトル獲得をワインで祝福してもらうなど、普段から関係の近い先輩との真剣勝負となる。
勝ち上がれば、永瀬七段、佐々木六段の勝者と決勝を戦う。どちらも小学生時代から切磋琢磨してきた間柄。こちらも楽しみな一局になることは間違いない。
34年ぶりの新タイトルとなった「叡王」を5月末に獲得したことは、将棋界にとって極めて大きな意味を持つ事件だった。豊島将之八段、渡辺明棋王、丸山忠久九段ら強豪を続々と撃破し、決勝七番勝負では金井恒太六段を無傷の4連勝で退けた。圧倒的な強さだった。
18歳、高校3年生で四段(棋士)昇段を果たした俊英であり、デビュー後も各棋戦で活躍してきた有望株だったが、タイトル挑戦に近づいた経験はなく、棋戦優勝などの実績もなかった。ところが今では羽生竜王、佐藤天彦名人に次ぐ棋界順列3位の立場である。力によって世界を変えられることを証明したことは、特に若手棋士たちにとって大きな道標になる快挙と言えるだろう。
何よりも「将棋が大好き」と公言する。「僕は将棋に携わることが何よりも好きなんです。戦っている時はもちろん、自宅で深夜まで研究している時も目をキラキラさせていると思います。解説するのも好きだし、観戦するのだってファンの皆さんに負けないくらい熱心に見ています」。
日頃から解説者として欠かせない存在でもある。どこか「オレたちの高見」という視線を浴びる若者は、どんな最速パフォーマンスを見せるのか。朗らかな解説者の時とは違う真の姿を目撃する機会である。
◆AbemaTVトーナメント Inspired by 羽生善治 将棋界で初めて7つのタイトルで永世称号の資格を得る「永世七冠」を達成した羽生善治竜王が着想した、独自のルールで行われる超早指し戦によるトーナメント。持ち時間は各5分で、1手指すごとに5秒が加算される。羽生竜王が趣味とするチェスの「フィッシャールール」がベースになっている。1回の顔合わせで先に2勝した方が勝ち上がる三番勝負。予選は藤井聡太七段が登場するAブロックからCブロックまで各4人が参加し、各ブロック2人が決勝トーナメントへ。シードの羽生竜王、久保利明王将を加えた8人で、最速・最強の座を争う。
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