灼熱のドルフィンズアリーナ(愛知県体育館)で、日を追うごとに波乱が生まれている。
横綱・稀勢の里(田子ノ浦)の休場に始まり、四日目には横綱・白鵬(宮城野)が支度部屋で足を滑らせてしまい、右膝蓋腱(しつがいけん)損傷、右脛骨(けいこつ)結節剥離骨折の疑いで2週間の安静を要するという診断書を提出し、自身初となる年3回目の休場。六日目には横綱・鶴竜(井筒)、続く七日目には前日の玉鷲(片男波)戦で右足親指付け根を痛めた新大関・栃ノ心(春日野)がそれぞれ休場となった。三横綱不在に加え、新大関の休場で名古屋場所は、文字通り大荒れの様相だ。
七日目には空調の不具合が報告されていたが、名古屋場所が開催されているドルフィンズアリーナの空調設備は、かなり旧式の空調設備を利用している。そのため館内全体が均一の温度になるかと言えば答えは「NO」だ。
スイング機能などは付いておらず、通風口から一定方向に冷気が出る仕組みになっている。館内には座席によって強めに感じるところと、弱く感じるところがある。今場所の大相撲中継を見ればひと目でわかるが、観客の扇子や団扇がパタパタと、あちらこちらで揺れているのはこのためである。そしてこの空調が、勝負の行方を左右することもある。
高校物理で習うボイル・シャルルの法則。気体を「圧縮」すると、その気体の温度が上がり、気体を「膨張」させるとその気体の温度が下がる。つまり冷気は暖気に比べて重いため、冷気は下に向かい、暖気は上に向かう。ドルフィンズアリーナの空調は二階席の上方に設置されており、そこから冷気が出ている。そうすることにより、すり鉢状になった会場の下の方まで冷気が届くという仕組みになっているが、ここで重要になるのが、土俵の水分量だ。
粘土質の荒木田という土で作られている本場所の土俵は、空調を効かせれば当然、その風力で土に含まれる水分が蒸発して乾燥していく。本来の湿り気があれば、土だけでは滑らないため土俵には砂が入れられる。そうすることによって適度に摩擦力を軽減し、相撲を取りやすくする。しかし乾燥した土俵は大変滑りやすく、他の本場所と見比べてもわかるように、この名古屋場所では力士が「足を滑らせる」シーンが多く見受けられる。
2年前の平成28年名古屋場所九日目、白鵬と勢の取組では、白鵬は足を滑らせて足の親指を骨折する事態を招いている。相撲では足裏と土俵との摩擦力は重要なファクターとなっており、上手く土俵に残れるかは、この摩擦力が大きく影響しているのだ。この土俵の微妙な塩梅が、今場所、“荒れる名古屋場所”の一因となって、皮肉な形で顕在化している。
上位陣の休場が相次ぐ中、カド番大関の二人による優勝争いを見たいところだったが、七日目を終え、関脇の御嶽海(出羽海)が全勝でトップを独走している。しかし、これから徐々に、御嶽海には「初優勝のプレッシャー」が掛かってくるだろう。さらに大関戦も控えるため、優勝ラインは12勝もしくは13勝あたりに落ち着いてくると予想できる。折り返し地点を迎えた灼熱の名古屋場所を制するのは一体誰になるのか? 千秋楽が近づくにつれて、優勝争いから目が離せなくなる。相手はもちろん、土俵を制した力士が、今場所の賜杯を手にすることになりそうだ。【相撲情報誌TSUNA編集長 竹内一馬】
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