車いすの人のスムーズな利用を目指し、国土交通省は10月から航空各社に「バリアフリー化」を義務付けることにした。そのきっかけは、あの「バニラ・エア問題」だ。
去年6月、車いすで生活するバリアフリー研究所の木島英登氏が奄美空港でLCC(格安航空会社)のバニラ・エア機に搭乗する際、同行者の補助で車いすに乗ったままタラップを上ろうとしたところ、職員に制止されてしまった。木島氏は止むを得ず、腕の力を使って17段のタラップを上ることになってしまった。木島さんは一連の経緯を大阪府と鹿児島県の担当者に報告。事態を重く受け止めたバニラ・エアも謝罪し、翌週には奄美空港に電動の階段昇降機を導入した。
問題を受け、国土交通省は航空法の施行規則を改正。リフトやスロープなど、車いす利用者の搭乗を補助する設備の導入を航空各社に義務付けることにした。ただ、バニラ・エアを除く、JAL・ANAなど大手航空会社6社については、問題以前から車いすの方への対応を進めていたという。
しかし、そもそもバニラ・エアはホームページに「出発5日前までに車椅子使用確認フォームを弊社にFAXしてください」と記載しており、同じ障害者からは「私は飛行機に搭乗する際に必要であれば必ず申告します」といった指摘が寄せられ、中には「あなたは非常識で障害者の盾を不当に扱う障害者の敵です。障害者のイメージが悪くなるので飛行機に乗らないでください」という厳しい意見もみられた。
13日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、当事者の木島英登氏とともに、"社会を変える波風の立て方"について議論した。
■障害者からは問題提起の手法に批判も
木島氏は当時のことについて「いろいろと事実誤認もあった。そもそも僕が乗る以前からバニラ・エアの奄美路線では、事前連絡をした人が搭乗拒否されていたことが報道されている。僕もなんとなく噂では聞いていたが、友達5人と一緒だったので担いでもらえばいいやと思っていた。事前連絡の指示については単に見逃していただけだが、もし連絡していたらまず空港に行けていなかったと思う。医療器具の持ち込みや大きなバッテリー付きの車いすの場合に事前連絡を求める航空会社もあるが、一般的には連絡の必要はない。年間30回くらい飛行機に乗っているが、歩けないことを理由に断られるということは無かった」と振り返る。
「今はいつでも手伝ってもらえるようになったが、25年くらい前はJRも2日前に連絡をしておかなければ乗降の時に手伝ってもらえなかった。そうでなければ強引に乗るか、周りの人に手伝ってもらうしかなかった。世の中を変えようというより、ただ単に飛行機に乗りたい、色んなところに旅行に行きたいというだけ。ネットで炎上もしたが、設備を付けてください、ということとはまた別の話だった。ただ、話題になった結果、国交省が動いてくれたのは良かったと思う」。
当時、そんな木島氏の問題提起の手法には賛同できないとして、「『障害者はみんなこういう卑怯な手を使うのか』と誤解されないか、とちょっと心配したものです」と自身のブログに綴ったのが、コラムニストの小林春彦氏だ。
18歳の時に脳梗塞で倒れ、高次脳機能障害、視覚障害を抱えている小林氏は、SNSなどで企業への批判などが拡散しやすくなった現状を踏まえ、「大衆がどういうふうに思うかということを考えず、ひとりひとりが困難さについて毎回爆弾のようにドカンドカンとやるのは、今の世の中では怖いことだ」と話す。
「車いすの人がやってきて上り始めたら、現場スタッフとしてはマニュアルに従おうとすることは想像できるはずだ。僕ら障害者とかマイノリティとか呼ばれる人々は、一部が全部と思われやすい。世の中にセクハラやパワハラなどの緊張感も漂う今、こういうことが起きたことによって、障害と名のつくものを抱えた人たちが全て危険因子で、攻撃してくる人なではと思われてしまう可能性もある。 人それぞれに抱えている困難や社会に実現してほしいことは異なるのに、大抵の人は"あの人はいい問題提起をした"とか"いい気付きがあった"ということにばかり目が行ってしまい、何が本当に必要かという議論がないまま、当事者不在の支援が生まれてしまうことにもなる。"障害者って怖い人だから"と思われないよう、ひとつひとつ丁寧にクリアしていく、順番を間違えない啓発運動をやっていきたい」。
■乙武洋匡氏「どうすればルールを変えられるのか、考えてほしい」
作家の乙武洋匡氏は、奄美大島に行くことになった際にバニラ・エアに問い合わせたところ搭乗できるとの回答を得たことを紹介、「これは木島さんのおかげだ」と話す。その上で乙武氏は「木島氏に対する批判として多かったのが、"事前連絡を求めるとしていた以上、ルールを守れ、守らないのはおかしい"というものだったと思う。果たしてその批判は正当だっただろうか。たとえばアメリカではバスの席が黒人と白人で分けられていた時代、指示に従わなかった女性が逮捕され、罰金刑を受けてしまった。そのルールはおかしいとして黒人たちが立ち上がり、ルールを変えることにつながった。ルールを守ることだけが正しいという論法に立つならば、この公民権運動も間違いだったことになる」と指摘する。
「公民権運動と今回の問題に共通しているのは、不当な状況に置かれている人がルールを決める側にはいないこと。バスのルールを決めていたのは白人だし、日本でルールを作っているのも基本的には健常者。それに対し不利な状況を受け入れざるを得ない人々がどうすればルールを変えられるのかということについて、ぜひみなさんに考えていただきたい」。
原田曜平氏は「デモの問題に構造が似ていると思う。例えばフランスではデモが身近な存在だが、日本では拒否反応がある。つまり、日本的かそうでないかという問題だ。もし"プロ障害者"と言われるような人が木島さんのような行動を取ったとしたら、さらに批判が出ていた可能性もある。ただ、ベビーカーに対するする社会の意識もなかなか改善されない日本では、ある程度挑発的にやっていくことも必要なのではないか」とした。
最後に木島氏は「そもそも"障害"の定義も線引きが曖昧だ。日本では聴覚障害者は多めに見積もっても1%程度だが、イギリスで10人に1人ということで対策している。なぜかと言えば、英語が話せず、コミュニケーションが不自由な人も含まれていて、災害が起きた時には音声ではなく、絵で示さないといけないと考える。赤ちゃんを抱いていれば移動に障害を抱えていることにもなるし、年齢によっても様々だ。日本は障害者手帳を持っている・持っていない、障害者・健常者という具合に分けすぎだと思う。そうではなく、困っている人誰もが飛行機に乗れたらいいと思うだけだ」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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