引退する先輩から託されたボールを“準完投”で渡し返した　横浜DeNA京山、先輩・加賀への恩返し

　引退する先輩投手からボールを託され、1人で投げ抜き、今度は自分が先輩に手渡した。横浜DeNAの2年目京山将弥投手（20）が、9年間の現役生活にピリオドを打つ加賀繁投手（33）の思いに応え、プロ入り後最高の投球を見せた。9月21日の対中日戦で1回1死から登板し、8回2/3を1失点で投げ抜き6勝目を挙げた。今後のチームを担う若手投手が、先輩の投げ様と言葉で、大きな成長を遂げた。

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　この試合は加賀が引退登板だった。中日の1番平田を加賀が三振に打ち取ると、内外野の全選手がマウンドに集まり、ラストマウンドを終えた男をねぎらっていた。この輪の中に向かい、後のマウンドを託されたのが京山だ。リリーフであれば、本来はコーチからボールを渡されるのが普通だが、コーチからスッとボールを受け取った加賀が、京山に直接渡した。中継で映った口の動きは「頑張れ」。いつもとは違う雰囲気の試合、しかもチームのCS進出を左右する大事なマウンドに立つ後輩に、短くも力強い言葉をかけた。

　先輩はマウンドを降り、ベンチで監督、コーチ、控え選手と握手を交わし続けた。球場全体からも、引退を惜しむ声が飛び交い、普段とは異なる試合である空気が流れていた。ところがこの空気が、数分後には一変した。直後に中日京田に先制ソロを浴びたからだ。球場全体にどよめき、ざわめきが入り混じる中、20歳の若者はマウンドで帽子をかぶり直して、気を静めるしかなかった。「ブルペンではそんなに良くなかったです。入りづらさはなかったんですが、最初にホームラン打たれたんで…」。

　先輩の大事な引退試合を負けるわけにはいかない。ただ、いきなり一発を浴びた。これがむしろ飄々と投げる京山を取り戻させた。「ホームラン打たれて、いい意味でテンポよくなれたかなと思います」と話すように、イニングを重ねるごとに尻上がりの調子を上げた。ストレートの球速も立ち上がりより、むしろ終盤に入って上がるほどだった。終盤8回、コーチから「（9回）行けるか」と問われると「今まで中継ぎに迷惑かけてきたので（行けると）即答しました」と、志願の“準完投”だったことを明かした。

　引退登板となった加賀は、横浜DeNAがリーグ下位に低迷していた時期から中継ぎで奮闘してきた男だ。まだ2年目だが、そんな先輩の背中はしっかりと見ていた。「加賀さんは、いつも行動で見せる人。ものすごい練習をするので、自分もやらなあかんなと思って見ていました」と、プロの努力を目に焼き付けた。1試合の中で投げても1イニング、短ければ1人、さらにはスタンバイしても投げないことだってたくさんある。そんな過酷なリリーフをしてきた先輩をリリーフする形で登板した京山が、過酷な12連戦初戦で、リリーフ陣の負担を減らす見事な投球を見せた。

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　登板時、加賀から渡されたが、試合終了後に今度は自分が記念のボールを手渡した。「ナイスピッチングと言われました」。ラミレス監督からも試合後に「非常にいいピッチング。ファイティングスピリッツがよかった。自身を持って投げていたし、コンビネーションもよかった」と絶賛された。それでも記者から、ほぼ完投と聞かれると「いや、完投ではないので。次は完投できるように頑張ります」と答えた。次こそは27個のアウトを全部取る。それが先輩にマウンド上でかけれらた「頑張れ」という言葉への、本当の答えになる。

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