就労は難しいと考えられ、現状では障害者雇用制度の枠組みからも外れている重度障害者たち。その問題の解決につながるかもしれない試みを行っているカフェが26日にオープン、作家の乙武洋匡氏が取材した。
テーブルに着いた乙武氏の眼の前に現れたのはロボット。声を聞いた乙武氏は、それが知り合いのものであることに気付いたようだ。
ここ「DAWN ver.β」は、「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」の患者や脊椎損傷など、これまでは就労の対象とされてこなかった重度の障害を持つ人たちが遠隔操作で接客をする"分身ロボットカフェ"だ。今回、約10名の障害者が交代で注文や接客業務を行っている。
乙武氏の接客をした村田望さんも、20歳の時に「自己貪食空胞性ミオパチー」という全国に患者数100人未満の難病を発症、自力で寝起きができない状態になってしまった重度の障害者だ。しかし会話や手を動かすことは可能であることから、自宅からカメラ・マイク・スピーカーが搭載された「OriHime-D」と視線入力装置「OriHime eye」を用いて遠隔から意思を伝達している。
これまで不可能とされてきた重度障害者の就労に新たな可能性を生み出した開発者の吉藤健太朗・オリィ研究所所長は「AIでいいところはAIでもいいが、働きたいと思っている人がいるのなら、そこをAIにする必要はないと思う。みんながやりたいことを実現するためにテクノロジーもお金もあると思う。今回、"働くってなんだろう"とか、"寝たきりになってまで働かせるのかよ"というコメントもあったが、そういう議論が生まれること自体に大きな意味があると思う。カフェを通して、働くって何、生きるって何、お金って何、といったを感じてもらえたら、やった甲斐がある」と話す。
取材を終えた乙武氏は「あまりロボット感がないというか、感覚的には人間がコスプレして接客してくれているみたいなイメージだ。真にすごいのは、寝たきりの方でもテクノロジーを使えば働くこと、社会と繋がることができるという点だと思う。村田さんと一緒に働いていた女性は、10年前から病気の影響で自宅から出たことがなく、当然お仕事をするのも10年ぶり。その方が"このカフェで何日間か働いてお給料で、自分を支えてくれた家族にお寿司をご馳走したい"というお話をされていた。また、"このロボットの登場で、社会との距離感が大きく変わった"とおっしゃっていたのがすごく印象的だった」話す。
「障害者雇用数の水増しに知恵を使うくらいなら、世の中に今どんなテクノロジーがあって、それを使うことでどう社会に参画してもらうことができるのかに知恵を使ってほしい。また、働き方というのはこういうもので、社会や組織へのコミットの仕方はこういうものであるという固定概念が次の障害になってくると思う。人にはそれぞれ最適な働き方、能力の発揮の仕方がある。それらを組み合わせ。最も組織が活性化する方法を考えるようになれば、こういった方たちもより生き生きと働けるようになると思う」。
分身ロボットカフェ「DAWN ver.β」は東京・赤坂の日本財団ビルで、26日~30日、12月3日~7日までの計10日間、期間限定でオープンする。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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