将棋の藤井聡太七段(16)が、実質的な2年目となる2018年度も圧巻の成績を残している。2月14日時点で45局をこなし、38勝7敗で勝率は.844。2月5日の順位戦C級1組の対局で敗れ、順位戦連勝記録が「18」でストップしたものの、12日の王将戦一次予選では池永天志四段(25)に対し、窮地からの逆転勝ち。対局数、勝利数こそ1年目の73局、61勝を下回るが、勝率では.836を上回っている。今年度喫したわずか7つの黒星のうち、1つをつけた山崎隆之八段(38)に、どうすれば天才棋士を攻略できるかと聞いたところ、その答えは「なるべく答えのない局面に誘導して、泥仕合にするのが理想的」という答えが返ってきた。
2016年10月に四段に昇段し、12月のデビュー戦から29連勝。実質的な1年目のシーズンとなった2017年度は最多対局賞、最多勝利賞、勝率一位賞、連勝賞と主要4部門のほかに特別賞、新人賞、名局賞 特別賞も受賞。数々の最年少記録を樹立した。好成績を収めた翌年度は、対戦棋士のレベルも上がり、成績を落とす若手棋士も多い中、予選免除や若手棋戦の“卒業”もあり対局数だけ見れば、前年度のペースを下回るが、その勝ちっぷりは脅威そのものだ。
山崎八段も「昔より勝ちにくくなっているはずなのに、それを上回る新記録をどんどん出されている。1年目と比べてA級棋士やタイトルホルダーといったクラス、若手の高勝率の人たちと当たる回数も増えているのに」と目を丸くする。「若手の精鋭たちも、藤井さんさえいなければ、正直なところもっと活躍できていたはずという意味で、とてもイレギュラーな存在。藤井さんと歳が近い人ほど、その重みは切実で、すさまじいと思います」と、本来ベテランに対して使われる「若手棋士の壁」に、早くもなりつつあるという。
昨年9月の対戦時は勝利した山崎八段だが、その時も「たまたま勝ちましたけど、内容を見ると(自分が)厳しかった」と振り返る。藤井七段においては、これだけ毎局、ネット中継などでも放送され、情報としては他の棋士に比べて十分過ぎるほどそろっている。「野球で言えば、160キロのストレートというものすごい球が飛んでくるのが分かっているのは、大きな情報です」。ただ、本来であればどれだけ強い棋士であっても、いい時と悪い時、山と谷が繰り返されるものだが、藤井七段においてはそれがない。「普通の棋士は、完璧な内容で勝てるのは年に数回あるかないか、という感じなのですが、藤井さんにおいてはそれがスタンダード。完成度が高すぎる」と分析した。
なかなかすきが見当たらない藤井七段だが、戦い方の特徴は見えてきた。形勢が分かる場面ほど、鋭い手が飛んでくる。優勢となると「一気に決めようとせず、じっくりと差を広げていくという戦い方は一定です」。一方、劣勢となると逆転を目指したカウンターのような一手が飛んでくる。「一気に勝負をつけようと、こちらが斬り合いを臨むと、斬り合い負けしちゃうんですよね」と苦笑いした。その上で現在、山崎八段が理想とする「対藤井七段」の戦い方は、形勢不明瞭な泥仕合だという。
針がどちらかに触れれば、それに応じて極端に高い計算能力を発揮する藤井七段。であれば、どっちつかずの状況でもつれ合いながら終盤に持ち込み、ぎりぎり最後のところで勝利する。そんな戦い方を山崎八段は考えている。「答えのない、どうやっても難しい、悪くもならないがよくもならない、そんな局面ですかね。なるべく答えが出ない局面に誘導するのが、一番勝てる可能性は高いんじゃないかと思います。はっきりさせちゃうと、かなり運がよくないと勝てない。泥仕合っていうのが理想ですかね。争点が分からないような感じです」。ある意味では懐の深さを求められる、大人の将棋とでも言うべきか。
2月16日に行われる朝日杯将棋オープン戦で、藤井七段は羽生善治九段以来となる、史上2人目の複数回優勝、さらに連覇に挑戦する。午前10時30分からの準決勝では行方尚史八段(45)と対戦、勝利すれば渡辺明棋王(34)と千田翔太六段(24)の勝者と、午後2時30分からの決勝でぶつかる。藤井七段が、これまで同様に鋭い切れ味を見せて連覇するのか。それとも20代、30代、40代を代表する3人の棋士誰かが、もつれ合う将棋で阻むのか。
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