相次ぐ児童虐待などを受け、政府が「親から子どもへの体罰禁止」を明記した児童虐待防止法などの改正案の成立を目指している。また、東京都議会も、全国に先がけて"しつけ"を名目とする体罰の禁止を盛り込んだ虐待防止条例を議論する予定となっている。
そんな中にあって、教育における体罰の効用や必要性を訴えてきたのが、戸塚宏氏が運営する戸塚ヨットスクールだ。
その教育方法は徹底的なスパルタ式で、時には訓練生に手を上げ、きつい言葉を浴びせかける。そんな厳しい指導によって非行や登校拒否の子どもたちを更生させる施設として注目を集め、最盛期には約80人もの訓練生が在籍し、その多くが社会復帰を果たしたとしている。
そんな中、事件は起こる。1980年から82年にかけ、コーチらから暴行を受けていた2人の子どもが訓練中に死亡。また、合宿中のフェリーから2人の訓練生が海に飛びこみ、行方不明になった。指導責任などを問われた戸塚氏は傷害致死の容疑で83年6月に逮捕され、懲役6年の判決が最高裁で確定した。
しかし戸塚氏は刑期を終え出所した際の会見でも「我々が故意に少年たちを傷つけて死に至らしめたと言っているんだから冗談じゃない。体罰は教育です」と主張、教育に体罰が必要であることを訴えた。
逮捕から36年。現在、戸塚ヨットスクールにいる訓練生は3人。うち2人は小学生で、家庭や学校などで対人関係がうまくいかず、訓練しながら生活を送る。取材に訪れると、子どもたちはオカリナを演奏していた。シンプルな楽器を毎日1時間ほど演奏させることで集中力を養うのが目的で、厳しい指導はなかった。
雷の心配が無い限り、台風でも2日に1回は実施するというウインドサーフィンの訓練は、休憩なしで2時間行われる。体力はもちろん、転落による恐怖で精神的にも追い詰められるという。「恐怖がないと進歩しない。甘やかされていると、恐怖で固まる。それをどう克服するか。その練習をしている」と戸塚氏。ここでも体罰は行わないが、厳しく指導したいという思いは変わらないようだ。
それでも体罰は行わないという。「やれないからやらんのだ。警察がいつでも引っ張れる。暴行なんだから。バカ裁判官が有罪にしちまって、何も知らんやつらが体罰ができんようにしたんだ」と憤る。「体罰をしてやればあっという間に終わることを長い時間をかけてやらんといかん。子どもはつらい思いが続いて損。親は金を払う損。誰の得にもならん。しつけには体罰が必要。教育には体罰は必要」と話していた。
体罰について「進歩を目的とした有形力の行使。体罰と暴力は違う」と主張する戸塚氏。「暴力は自分の利益のためにやるが、体罰は教育のためにやるんであって、自分には何の利益もない。しかもマスコミに叩かれて損失が起こるだけ。目的が違うものを一緒にするやつがあるか。今、マスコミがやっている議論には"体罰は悪"という大前提があって、それに沿った話ばかりしている。だから体罰の定義もできていないし、善悪を知らないから自分たちが善のつもりになっておかしなことになっている」と説明する。
過去には教育現場での体罰は珍しいことではなく、ネット上には「教師に殴られたが恨んでいない。色々と教えられた」「泣きながら殴ってきた先生がいたが、心配してくれていることが嬉しかった」「竹刀で打たれた後『なぜ叩かれるのか?』を自覚させられ2度と同じ過ちを犯さなくなった」といった声も多い。「私も体罰世代だから、小学校の頃はよく殴られた。やられたけど先生に"ありがとうございます"と言えた。心の底から。おかげで自分が進歩したという実感がある。だから今度もこれを使って進歩できるなあと思う」(戸塚氏)。
他方、"夜回り先生"の愛称でも親しまれている元高校教員で教育家の水谷修氏は、こうした声について「そういう感想を持てる子たちは殴られなくても良い子になっていたと思う」とした上で、「例えばタバコを吸ってはいけない場所で喫煙している人に"やめなさい"と言って殴ったら、これは暴行で、怪我をさせれば傷害だ。それが、どういうわけか家庭だったら、妻から夫、夫から妻ならばDVとか呼ばれ、親から子どもならば虐待と呼ばれ、学校で先生が生徒にやったら体罰と呼ばれる。この背景には、かつての"夫は妻より偉い"とか、"子どもよりも親は偉くて支配するものだ"といった傲慢な思想がある。体罰なんていう言葉を残したのが問題であって、そもそも全てが暴行だ。けがをさせれば傷害だし、殺せば殺人になる。ただそれだけのこと。体罰と暴力に線引きなんてないし、愛があろうがなかろうが、人様を殴ったら暴力だ。それが基本的人権の考え方だ」と反論する。
「私は25歳から教員をやって、日本で一番荒れていると言われていた夜間中学にも12年いた。めちゃくちゃな学校だったが、一回も子ども怒鳴ったり声を荒げたこともないし、当然叩いたこともない。それでも教育成果が上がらないわけではない。子どもたちに寄り添って"もう1回大人を信じてみよう。過去は過去。明日は作れるからもう1回、一緒に夢見てみようよ"、これが教育。怒られるから叩かれるから言うことを聞くという、恐怖で支配するなんてのは教育じゃないし、そういう人間しか作らないよと。身体に覚えさせることではなくて、心と頭に分からせることが教育なんじゃないかと。確かに時間はかかる。でも、学校で体罰をしてはいけない。子どものそばに寄り添えばいい。子どもと共に泣き、共に笑い、共に明日を語り合ったり、それができれば変わる」。
戸塚氏が「それでも直せなかったような子がうちにくる」と話すと、水谷氏は「戸塚さんのところにくる子たちも、僕のところにくる子たちも共通しているのは、問題を持った子。問題を抱えさせられた子ども。普通に育っていれば戸塚さんのところにお世話になる必要もない、僕のところに相談にくる必要もない子。そういう子には、過去に問題を起こす環境だとか、親との関係とか、色々なものがある。そこの解決を図らずに本人を強くして克服させようということを戸塚さんがおっしゃっているならば、それはあまりにも傲慢だし、むごい」と重ねて訴えた。
元東京都教育委員で、公立小学校の教員経験もある乙武洋匡氏は「私も水谷先生と考えが一緒だ。大人だから正しくて、子どもだから間違っている、年上だからものが分かっていて、年下だからものが分かっていないということは、全てに当てはまるわけではない。ますます価値観が多様化している時代の中で、自分の価値観には合わないから、自分が間違っていると思うから、という中で体罰を行使されては、子どもはたまったものではないし、価値観が食い違う時に暴力で解決してしまおうという価値観を育ててしまうことになるのではないかという気がする。私の知り合いで飲食業のご実家に生まれたお子さんが、アレルギーのために家業を継げなくなってしまった。ところがお父様が昔気質の方で、アレルギーというものを科学的に理解できず、嫌だから逃げたんだと今でもおっしゃっている。そういう昔の価値観のまま、殴って気合いいれて言うこと聞かせようとしても解決しない問題がある。そういうところに一方的で前時代的な価値観の思考で子どもと対峙するのは控えるべきだ」とコメントしていた。
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