日本有数の米の産地といわれる福島県。しかし、「放射能汚染米」「がんになる」「危険」「食べたくない」などと、福島第1原発の事故の影響で、農作物にも放射能セシウムが含まれているとの情報がネットで拡散。結果、全国平均と比べ低価格での取引が固定化、ブランド米の多くが「業務用米」など、福島県産と分からない形で流通しているという。
現在、全ての福島県産の米は放射性物質に関する検査を実施しており、1kgあたり100ベクレルという、国が定めた基準値を超えた米は出荷されないことになっているが、ここ5年間、そうした米は出ていないという。「二本松農園」(二本松市)の齊藤登代表が作ったお米も、測定値はほぼ0が続いており、ネットを中心とした直売で、風評を気にせず買ってくれる消費者との関係を大事にしてきた。
世界一厳しいともいわれる検査を通過し、世界最高水準の安全性といわれる福島県産の食品。しかし、東日本大震災から8年が経った今も続く風評被害により、斎藤さんの周囲でも米作りを辞めてしまった農家は多いという。「消費者の頭の片隅にある、震災直後に付いたマイナスのイメージを全て拭いさるのは難しい」。
昨年オープンした「SHOKU SHOKU FUKUSHIMA」(郡山市)では、風評被害の払拭に向け、生産者と消費者が触れ合えるイベントを開催している。「このシイタケ、放射能検査を何回受けていると思いますか。7回です」と安全性をアピール、参加者は「これほど美味しいシイタケって食べたことなかった」と絶賛。「福島県の人は情報発信をやめちゃいけないなと思う」と話す人もいた。
「美酒嘉肴 ゆきみさけ」(東京・中野)の店主・渡邉祐紀さんは「私の地元・石川郡平田村は葉タバコが盛んだったが、セシウムが降ったということで全滅し、農家の方々は東京から来た企業の工場で働くことになった。提供している地元の酒蔵・若清水酒造のお酒の酒米も、全て煩雑な手間をかけて検査をしてもらっている。酒米を作っている農家さんも酒蔵の人も、早くお客様に提供したいということで、皆さん全て自腹を切ってやった」と話す。渡邉さんは石川郡古殿町の農家と契約し、自ら精米したご飯を提供、客は「めちゃくちゃおいしい」と舌鼓を打つ。「"これ福島のですけど、大丈夫ですか"って聞くが、"全然大丈夫だよ、山菜も食べたいから。いつでも福島のOKだよ"と言ってくれるお客さんがたくさんいて、嬉しい」。
福島県いわき市出身で立命館大学の開沼博准教授(社会学)は、「日本酒を飲むおじさんが、実は風評被害払拭の救世主でもある。というのも、震災直後の2011年、福島のあらゆるものが売れなくなる中、統計的に売上が上がったのが日本酒。"飲んで応援しよう"ということで、福島の日本酒の人気が上がったというのがいい。データや検査の話も重要だが、同時に楽しいよ、美味しいよ、というところに訴えかけていくのも風評被害払拭の重要なポイントだ」と指摘した。
そんな中、福島・いわき市にある沼の内漁港では大きな壁に直面している。それが放射性物質の海洋放出だ。
かねてから福島第1原発では、汚染水からあらゆる放射性物質を除去しているが、唯一トリチウムという放射性物質だけは取り除くことができず、東京電力はトリチウムを含む水をタンクに貯め続けてきた。しかし、敷地の限界や廃炉作業への影響から、一昨年12月、原子力規制員会は「希釈して海洋に放出するのが現実的にとり得る唯一の手段」と公表。放射線が非常に弱く、人体への影響はないとされるため、一定の濃度に薄めれば、海に流すことが認められているのだ。それでも漁師たちは「仕方なく目をつむって涙をのんで決断するしかないけど、それでもOKとは言えない。最後まで反対する」「風評が出るのが怖い。できれば流してもらいたくはない」と心の内を明かす。
原発事故と食に関して研究している筑波大学の五十嵐泰正准教授(社会学)は「安全というのはマイナスからゼロになるということ。もっと買ってもらうために魅力を発信する局面になってきたと思う。実際には放射能を心配している消費者は少なくなってきているので、お店が忖度せず、店頭に展開すると消費者は買うということもわかってきた。そういう認識や理解は必要」と指摘していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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