東日本大震災から8年が経った今も続く、福島県産の食品への風評被害や、放射線にまつわる誤った情報の拡散。これまでSNSで拡散したものとして、真偽は定かではないが「福島産の米・野菜はセシウムで汚染。触ったり食べたりしてはダメ」「娘が被曝し、障害を持った孫が生まれてきた」「福島の毒野菜を他県にばらまくな」「フクシマの後、がんでの死亡者が多すぎる」「原発誘致するとフクシマの二の舞になる」といった情報があった。
福島県いわき市出身で立命館大学の開沼博准教授(社会学)は「主にTwitterで流れたもので、"いちごが変な形をしている"というものがあった。いうものがあった。これが福島の放射線による異常なんじゃないかということだったが、デマだった。単に一定の割合で含まれる、鶏冠果という規格外のいちごの写真だった。あるいは私が確認したところでは5万リツイートほどされていたもので、カエルの幼生が放射能の影響で巨大化したという写真。これも当然デマで、オオサンショウウオの写真だった。もちろん不安や、"知っておかなくちゃ"という思いもあると思うし、愉快犯的にやっている人もいると思うが、食に関する嘘が何度もループしてしまっているところがSNS社会の難しいところだ」と話す。
原発事故と食に関して研究している筑波大学の五十嵐泰正准教授(社会学)は「3号機の爆発の報道も大きかったし、あのイメージが強く残ってしまっていると思う。その後、理解が進んだというところもあるが、やはり福島から心理的・物理的に距離が遠いところでは、福島県産のものに触れなくても生活が回ってしまうので、情報をアップデートしてないまま今に至ってしまっているというのもある」と指摘した。
ここで、ウーマンラッシュアワーの村本大輔は「"福島の現状を知ってほしいという人がいたら、僕のInstagramに投稿してください"と呼びかけた。すると色んな意見が寄せられたが、その中には"報道されてはいませんが、奇形児が生まれています、国は全てを隠しています"、という怒りの文章が書き込まれた。本当に国が隠しているなら伝えないといけないという気がしたし、無責任なデマかもしれないし、消したほうがいいのかどうかと悩んだ。"本当かどうかは自分で調べてください"とは書いたけど、反省した」と明かした。
すると、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「デマの多くは善意で拡散してしまうし、仮に間違いだったとしても、注意喚起になるなら拡散してもいいじゃないかと言う人もいる。村本さんもそのようなことを過去にツイートしていた。マイナスな影響も山程あるのに、そこまで考えが及んでないことがいけないと思う」と指摘。「ただし、個人の発信だし、受け取る側が良い意味でも悪い意味でも村本さんだというバイアスを認識した上で受け取ることが大事。SNSとはそういう世界だ。一方で、新聞やテレビ、雑誌やラジオが、どこまでがファクトでどこからがデマなのか分からないような情報を震災以降の8年間、流し続けているという事実もある。朝日新聞や東京新聞の報道にもそういうものがあった。かつて我々は、たまに誤報もあるけどテレビや新聞のことはある程度は信用できるというイメージを抱いていたが、今はその信頼性が低下していると思う」と主張した。
■福島を「フクシマ」と表記することの問題点
マスメディアの問題について、ノンフィクションライターの石戸諭氏は「福島に関しては、明らかに確度が低い情報がたくさん出回っている一方、明らかに確度が高い情報が知られていない。例えば、米の全量検査でずっと測定値がゼロという情報。お世辞抜きに世界で一番厳しい検査をやっているのに、それでも出ていないということを知らない人が大勢いるというのが日本の現状。確度の高い情報、ファクトを伝えていくことが重要」と話す。
これに対し、佐々木氏が「ニュースというのは、どうしても何か驚くべき出来事でないといけなくなる。そうすると悲劇が多くなり、マイナスイメージがどんどん膨らんでしまう。ニュースではないけれどファクトだと、いうことをどうやって伝えていくかというのが、今のメディア空間ではとても重要なこと」と指摘すると、石戸氏は「これだけの原発事故が起きた後、生産者たちの努力によって"全量検査で連続ゼロだった"というのは驚くべき話だし、悲劇でなくてもニュースになると思う」と反論した。
一方、小川彩佳アナウンサーは「メディアとしては8年間の検証や反省はしていかないといけないとは思う。ただ、『報道ステーション』を担当いた頃は、毎月11日には今何が起きているのか、人々はどういう思いでいるのか、継続して報道しようとしてきた」と話す。
これを聞いた佐々木氏は「小川さん、テレビ朝日が3.11の特番で福島をカタカナ表記し、批判を受け直前に取り下げたことについてはどう思っているんですか。カタカナで表記するということは、正常でない、異質なものであると考えているということだと思う。福島県の人たちが繰り返しやめてほしいと言われていたのに、局内で議論はされなかったのか。一部の人やメディアは今もカタカナで表記し続けているが、僕はこれがある種の"穢れ"や、福島を特別なものに変容したというイメージで描いているということだと思うし、風評被害をさらに広げる結果に繋がっていないか」と詰め寄った。
小川アナは「いろいろな角度で見る福島があって、原発事故を語る上で、あの特異なことが起きたということを絶対に忘れてはならないということで、カタカナの表記をしていたと思う。漢字の福島とは切り離す意味だったが、葛藤もあって漢字表記に戻したんだと思う。福島県の人たちの反響を見ていなかったことは反省しなければならないと思うし、その想像力は欠けていたのかなというふうには思う」とコメントした。
石戸氏は「広島=ヒロシマ、長崎=ナガサキ、福島=フクシマと、原子力の流れでそうしたのだろうが、カタカナで書かなくてもグローバルな問題だということは伝えられると思う。ハレーションが起きるなら、カタカナにすべきではないし、本当に伝えたいことがあるなら、そのための方法があるはずだ。言い方は悪いが、カタカナで書くかどうかは些末な話で、本質ではない」、開沼氏は「海外の島で放射線の健康被害が出たことが福島と重なっている、ということだったと思うが、これがあたかも福島で病気が出まくっているというような文脈に見え、根拠はあるのか、不快だという批判を浴びた。こうしたことが色んな形で繰り返されてきた結果、カタカナの福島=悪いものかのようになってしまった」とコメントしていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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