誠実で強い。そんな言葉が中村太地七段(30)を紹介する記事には、何度となく登場する。それだけ、この好青年棋士を伝えるものとして、ぴったりとはまるからだろう。その人柄と最後まで諦めない姿勢から、棋士の間でも後輩だけでなく同世代であっても尊敬を口にする者が少なくない。そんな中村七段が、短時間で精神をすり減らす超局地戦ともいうべき早指し棋戦に、前だけを見て挑戦する。
2006年、高校3年生となる4月に四段昇段でプロ入り。翌年には早稲田大学に進学し、学生棋士として活躍を続けてきたが、飛躍したのは2011年度だ。40勝7敗、勝率0.8511という圧倒的な成績を記録。中原誠十六世名人(71)が持つ0.8545という記録に迫り、勝率.850以上は史上2人目という快挙を達成した。かの藤井聡太七段(16)も昨年度、記録更新に迫ったが、最終的には0.8490。勝率.850というのが、どれだけ勝ちまくったかがよく分かる。
タイトル戦出場歴は4回。3回目の出場となった王座戦五番勝負で、平成の伝説とも言うべき羽生善治王座(当時、48)を3勝1敗で下し、悲願の初タイトルを奪取した。翌年、斎藤慎太郎七段(当時、26)にタイトルを奪われ、現在は無冠。昨年度の成績も23勝18敗、勝率.5609と4年ぶりに6割を切った。通算勝率が0.6326(2019年5月8日現在)であることを考えれば、昨年度は試練の年だったと言える。
対局だけでなく、いずれは将棋界全体の中核としての働きも期待される人格者だが、初登場となる超早指し棋戦「AbemaTVトーナメント」では、積極的に戦いに出る。事前のインタビューの際には、色紙に「前を見る!」としたためた。「トーナメントで上に行くことももちろんそうですし、一局の将棋の中でも守りに入らずに、積極的に行こうという意味です」と、終盤ともなればほんの数秒で選択が迫られる対局でも後退はしない。時間が切迫する中、まさかの大逆転劇が数々生み出された超早指し戦だからこそ、諦めない中村七段の姿勢が生きてくる。1局約20分。そう説明される同棋戦において、対局時間が長くなるほど、中村七段のペースだ。
◆AbemaTVトーナメント 将棋界で初めて7つのタイトルで永世称号の資格を得る「永世七冠」を達成した羽生善治九段の着想から生まれた、独自のルールで行われる超早指しによるトーナメント戦。持ち時間は各5分で、1手指すごとに5秒が加算される。羽生九段が趣味とするチェスの「フィッシャールール」がベースになっている。1回の顔合わせで先に2勝した方が勝ち上がる三番勝負。予選A~Cブロック(各4人)は、三番勝負を2回制した棋士2人が、本戦への出場権を手にする。本戦トーナメントは8人で行われ、前回優勝者の藤井聡太七段、タイトルホルダーとして渡辺明二冠がシードとなっている。
(C)AbemaTV
▶5/12(日)19:00~ 第2回AbemaTVトーナメント 予選Bブロック<前編> 糸谷哲郎八段、中村太地七段、都成竜馬五段、佐々木大地五段