金髪・銀髪といった独特のヘアースタイルにホストのような名前。個性的なキャラクターが際立つプロ雀士・白鳥翔は、昨年10月から開幕したプロ麻雀リーグ「Mリーグ」で、渋谷ABEMASの一員として戦っている。ヘアースタイルだけでなく、突拍子もないコメントからも、かなり際立つ存在だが、その裏には他のプロ雀士にも知られない「パニック症」と戦い続ける日々があった。
1986年、東京出身。中学から大学まで名門・慶応に進み、慶應義塾大学在学中にプロ雀士に。それだけでも頭脳明晰であることはよくわかる。昨年行われたMリーグのドラフト会議でも2000人以上いると言われるプロ雀士から、21人の初代Mリーガーに選ばれた。ただ、今回密着したニュース番組「熱闘!Mリーグ」のスタッフが自宅の部屋を訪れると、32歳の男性が暮らす部屋には見慣れない「おむつ」があった。「僕のです。高校生の時にパニック障害っていう病気になったんですよ。緊張すると、トイレに行きたくなったりしやすいんです」。
パニック症(障害)とは、突発的に極度の緊張や恐怖に襲われ、手足の震えや発作を起こす心の病。緊張で突如尿意に襲われる白鳥は、長年そんな病と戦い続けている。「自律神経はずっとやられていて。試合中にトイレに行くのがよくないというか…」という苦しみは、卓を囲んでいたMリーガーたちも知らない事実だ。
高校時代には、麻雀をしている最中に「いきなり過呼吸になった」こともある。17歳の頃だった。それから15年もの間、薬は常に忍ばせている。「死にたいと思ったことはない」というが、症状がひどければ電車やバスに乗れない。さらにはプロになってから、別の医師に相談に行ったところ「麻雀プロをやっていて、精神的に緊張状態にあったりする。テレビの前に立つのも緊張するだろうし、そういう仕事をすると言ったら、(医師から)なるべくそういう仕事はよした方がいいと」実質的には“引退勧告”も受けた。
普通の生活を取り戻すには、麻雀を捨てるしかない。ただ、白鳥はその選択をしなかった。「薬は飲まないと体調が悪い。でも麻雀を辞めるというのもない」。自分の体とうまく付き合いながら、プロ雀士として戦うという覚悟は決めていた。
ある日、スタッフは白鳥の実家を訪れた。整体師をする母・ちはるさんは、高校時代に起きた白鳥の異変に、はっきり本人から言われずとも、しっかり気づいていたという。「高校生くらいの男の子が(親に内緒で)自分から病院に行くって、あまりないじゃないですか。ある時、お薬の袋があって、どうしたんだろうって大変驚いた」と、昨日のことのように振り返った。ここでいろいろと聞き出したいところだが、ちはるさんはぐっと堪えた。「病気だと分かった後も、あえて聞きませんでしたよ。翔が何か期待に応えられないとか、そういうことがもし原因だとするならば、私がまた聞くことで、その心の負担になるのが嫌だった」と、病気の話題に触れないことが最善だと思ったからだ。当の本人・白鳥は「あんまり聞いてこないから、重く捉えてないのかなと思ったんだよね」とこぼすと、ちはるさんは即座に「そんなことないですね」と親心を見せた。
一流大学に進学したものの、進んだ道はプロ麻雀界。親の立場からすれば、正直なところ「自分の子育てが否定されたような気にもなったかな」と語った。そこで白鳥はプロの世界で5年間一生懸命やってみて、ダメだったら公務員試験を受ける、という約束をする。その決意によってか、タイトルを見事に獲得。今では、ちはるさんから「次は(Mリーグで)優勝目指して頑張ってください」と言ってもらえるようにもなった。
密着取材の最後、白鳥の姿は美容院にあった。「2週間から3週間の1回」は通い、その時々の気分に合わせてヘアースタイルを変える。実はこれが、パニック症を引き起こすストレスの解消、リフレッシュにつながっていた。この日はアッシュカラーにチェンジしたが「今めっちゃテンション上がってますね」と喜んだ。2019年シーズンもプレーすることが決まっている白鳥。髪色が変わる度に、卓上で高く翔ぶ準備は出来上がっている。
(C)AbemaTV