将棋界の第一人者・羽生善治九段(48)が、藤井聡太七段(16)の対局を初めて解説した。7月14日に放送された将棋の超早指し棋戦「第2回AbemaTVトーナメント」において、木村一基九段(46)と藤井七段が準決勝(三番勝負)で戦い、結果は藤井七段が2-1で勝利。前回大会の優勝続き、2大会連続で決勝進出を決めた。日頃から、藤井七段の実力、将棋の内容に注目する羽生九段だが、今回の解説で特に高評価だったのは「適応能力」と「成長速度」だった。
わずかな時間で課題を自ら見つけ、そして修正し、成長する。この一連の流れが、七冠独占、永世七冠、タイトル99期、通算最多勝など、棋界の記録を総なめにする第一人者の心に響いた。三番勝負の第1局。藤井七段は、木村九段に対して流行の戦型「角換わり」で勝利した。中盤まで拮抗した戦いの中、木村九段が見せた一瞬の隙を逃さず、あっという間に勝利につなげた戦いぶりを、羽生九段は「最新の将棋という感じがしますし、さすが藤井さん」と称えていた。
この三番勝負、1局あたり約20分の超早指しということもあって、1日で全てを終える。第2局は木村九段の勝利に終わり、第1局を終えてから休憩を含めて2時間も経過しない間に、第3局が始まった。すると出だしは、第1局と全く同じ進行に。ところが、前回勝利していたにもかかわらず、藤井七段は変化を入れた。結果は、第1局以上の快勝。ここに羽生九段が「この短い時間の中で対策を練って、新手を繰り出した。それが見事に決まった。非常に驚く一局でした」と大いに感心した。
羽生九段は、対局を見終えてこう推測した。「1局目は勝ったとはいえ、途中の局面があまり藤井さんも自信がなかったと思うんです」。勝利は収めたものの、同じ局面を再び迎えた際、今度は果たして勝てるのか。そう考えただろう藤井七段が、すぐに工夫を入れてきた。「何かしら修正しないといけないんですが、ゆっくり家に帰って研究する時間もないですし。限られた時間の中で、修正してきて、新しい発想を見せたというところに、適応力の高さを感じました」と、目を丸くした。
勝ちにおごらず、常に上を見る。どんな競技の世界でも、トップクラスの選手であれば、同じ言葉を口にする。そんなものを実際の対局で表現した藤井七段に、不世出の名棋士・羽生九段も、大きく心を動かされていた。
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