8月22日。甲子園決勝。星稜のエース・奥川恭伸は、甲子園優勝に一歩届かなかった。
試合終了時は笑顔だった奥川に涙が溢れてきたのは、閉会式の時。「中学校の時の顧問の先生に(スタンドから)声をかけてもらって、こみあげてくるものがありました」。恩師からの「(最後まで)ちゃんとしろよ」と温かい言葉をかけてもらい、こらえきれなかった。
それでも閉会式後には笑顔に戻る。これが奥川恭伸という男だ。優勝した履正社のエース・清水大成とともに、マウンドの土を集める。「ここまで来られて幸せだった。甲子園球場にありがとうという気持ちと、マウンドに立たせていただいた感謝の気持ちで土を集めました。入学当初は1回出られれば良いかなと思っていた甲子園。仲間に助けてもらって4回も来させてもらった。幸せ者です」。そう言った奥川。あれから2日。捕手の山瀬慎之助とともに今夜(24日)、2年連続となる高校日本代表に合流。第29回WBSC U-18ベースボールワールドカップ(8月30~9月8日、韓国・機張)で世界の頂点を目指す。
4月に行われた代表候補研修合宿では参加した選手全員に、永田裕治代表監督から日の丸をつけることの重さを説かれた。2年生だった昨年に代表を経験し、日の丸の重さを知っている奥川に寄せる期待も大きい。
最速は石川大会で球場のスピードガンで計測した158キロ。夏の甲子園でも154キロを計測したスピードと、高校生離れした巧みな投球術に全国の高校野球ファンは魅了された。マウンドで見せる笑顔も愛くるしい。星稜のモットーでもある“必笑”を体現した一人だ。今大会でのパフォーマンスも注目される。
不安な点は、甲子園で決勝まで戦い、512球を投げた疲労。さらに甲子園を決勝まで戦い切ったことで、9月になれば精神的疲労も出てくるかもしれない。この部分は永田監督も最も気を使うだろう。実際に、「一区切りはついたが、自分にとっての高校野球は終わってはいない。最後までしっかりやりたい」と語ったものの、4月の研修合宿で意識づけをした「日本一の先にある世界一」の質問をした時には、「まだ今は考えられない」とも話した。精神的な疲労は目に見えにくい部分もあるだけに、永田監督を中心とした首脳陣の眼も大事になる。投手陣で最後に合流した奥川を、9月8日の最終日まで逆算して、どう使っていくのかにも注目だ。【松倉雄太】