チームを強くしたかったら、チームを人気にしてしまう。そんな逆転の発想が、実力も人気もなかったチームを、まるで別物に仕立て上げた。横浜DeNAベイスターズの初代球団社長として活躍した実業家の池田純氏が11月28日に放送されたAbemaTV『NewsBAR橋下』に出演。橋下徹氏ら共演者たちに、人気・実力ともに乏しかったプロ野球の1チームをいかに育て上げたか、そのノウハウを公開した。競技である以上、監督・コーチといった指導者を集め、素質ある選手を集めて鍛える、というのが従来の考えた方だが、池田氏のアプローチはまるで別角度。先にチームを人気者にすることから始めたのだ。
2007年、株式会社ディー・エヌ・エーに入社した池田氏。長いプロ野球の歴史において、史上最年少35歳で球団社長に大役を任されると、マーケティング担当役員を務めていた手腕を思う存分発揮した。真っ先に、エンターテインメントとして劣っていた球場の各サービスに着手。「全国のクラフトビールを取り寄せては飲みましたよ。尿酸値が上がるまで(苦笑)」と、2年間かけて球団オリジナルビールを開発、これが大ヒットした。
続いて手をつけたのは、ビールのお供に最適な唐揚げ。ミシュランで星を取るようなレストランに、共同開発をお願いしようと通い詰めた。当初は「池田さん、唐揚げはどこまでいっても唐揚げだよ」とはねのけていたシェフを最後は口説き落とし、「その場でチーズ削って、トリュフ削って」とトライしたところ、これまたおもしろいように売れた。話を聞いていたお笑いコンビ・サバンナの高橋茂雄が「野球ファンの友達に聞いたら、横浜スタジアムが圧倒的におもろいって。飯もうまいし、とにかく楽しい」と興奮気味に語った。
池田氏は、年配者も多い野球界から「若造Gパン社長」と怒られながらも突き進んだ。試合のイニング間、これまでなら観客はトイレ休憩、選手はキャッチボールでもするところだったが、なんとグラウンドに観客を入れた。「マシンでフライを捕れたら、ビールを半額にしたんです。神聖なグラウンドで何をするんだって言われましたけど、でもお客さんはすごく盛り上がるんです」。映画や漫画、ライブなどのエンターテインメントを手掛けてきた経験が活き、この企画も大当たり。3万人の観客の前でフライを捕るという非日常体験が、ファンの間で話題になった。
選手からすれば、練習中に観客が入ってくること自体、おもしろいものではなかった。ただ、ここでもその意味を正確に伝えれば、納得する確信があった。「選手も結局は目立ちたがり。だんだんお客さんが増えて、注目が当たって、自分のユニフォームのレプリカが売れると、いいお小遣いが入るんですよ。だから全部経営の説明をして『お客さんが増えたら、これだけ君たちの年俸を増やす。だから協力して』と。もともとそういうロイヤリティはあったんですが曖昧だったので、どの選手が一番売れているとか、どのくらい入るとか説明しました。お小遣いでも数万円、下手したら数億円ですから」と、実利があると訴えた。
選手も生活がある以上、年俸だけでなく副収入が得られることは願ったり叶ったり。人気とお金。包み隠さず伝えたことで、選手もファンサービスに対して、むしろ前向きになった。
3万人近くを収容する横浜スタジアムを満員にすることは、野球で勝つことにおいてもとても重要だった。選手にとってのマイナス要素を消せたからだ。橋下氏から「(ファンを)楽しませるのはわかりやすし、やりやすい。でも野球を強くするのは違う分野。組織づくりはどうしたんですか?」と問われると、池田氏は真っ先に「一番効くのは、満員にしちゃうこと」と答えた。なぜか。選手のメンタルを損ねる野次を打ち消せるからだ。「(就任当時は)球場がガラガラだったんですよ。それで選手が残念なプレーをすると野次が飛んで、全部聞こえるんですよね。すると選手と本当に口ゲンカになるんです。その時『満員にしたら聞こえなくなる』から」と伝えたという。
野次というストレスを満員の歓声で消したが、効果はそれだけにとどまらない。「今度はため息が聞こえるんですよ。打てなかった時に、3万人のため息が。(選手が)やべぇ、打たなきゃって。火事場のクソ力になるんです」と、ついにパワーへと転化した。そうして迎えた池田氏の契約最終年の5年目。「選手が『今度は自分たちの番です』って気になって、勝っていきだしたんですよ」と、横浜DeNAベイスターズとしては初のクライマックスシリーズ進出を決めた。
この経営者ゆえのチーム強化術に、橋下氏は「野球の技術に優れた人をとにかく集めることを考えがちだけど、まずは観客。スポーツビジネスとして観客はいないとね」と共感していた。(AbemaTV/『NewsBAR橋下』より)