受け巧者として“千駄ヶ谷の受け師”、46歳3カ月で悲願の初タイトル獲得で“中年の星”とも呼ばれる将棋の木村一基九段(47)。最近では、藤井聡太二冠(18)との王位戦七番勝負でタイトルを失ってしまったが、その戦いぶりや言動で将棋ファンの心を揺さぶった。親しみを込めて“将棋の強いおじさん”とも呼ばれるが、その人気を支える大きな理由は、人間味溢れるトークにある。9月6日に行われた将棋日本シリーズ JTプロ公式戦の2回戦では、斎藤慎太郎八段(27)の前に敗れたが、ファンを大いに楽しませたのは終局直後の感想戦だった。
将棋日本シリーズは、公式戦の中でも独特のスタイルを採用している。持ち時間各10分、切れたら1手30秒未満、その他に考慮時間各5分という最短の公式戦であり、また2日制のタイトル戦で用いられる「封じ手」もある。終了後には、対局者同士が大盤で対局を振り返るまでがセットになっている。例年、大きなイベント会場で行われる対局だが、今年は新型コロナウイルスの影響もあり、都内スタジオで行われている。この日も木村九段と斎藤八段が、対局を終えてすぐに大盤の前にやってきた。
対局について木村九段は「仕掛けられてマズくしました。内容がよくないものをお見せして申し訳ないです」と語ったが、いざ斎藤八段と話し始めると、一気に木村節が全開になった。
早い段階で戦いが始まったという点について「一番マズいところで仕掛けられてしまいましたね」と苦笑いすると、続けて「斎藤さん、もう勝ったと思ったでしょ。思ってない?」とニヤリ。まさかの一手を飛ばし、“西の王子”の異名を持つイケメン棋士を翻弄した。
まだまだ舌は回り続ける。「飛車を引いて、仕掛けられて、後手を引いているようではタコ殴りの刑という感じでしたね」と、将棋界では耳慣れないワードで劣勢を表現すると、敗勢になった最終盤については「これは煮て食べるか、焼いて食べるか、刺し身で食べるかというところ」と、またしてもオリジナルの表現で説明。なんとか粘っていた場面では「心の中で『間違えろ』と念じていたんですけどね」とジョークも飛ばした。
棋士によっては、敗戦直後はなかなか言葉が出てこないケースも多い中、テレビ対局ということも意識してか、対局から一転してエンターテインメントに力を注ぐ木村九段の様子に、中継していたABEMAでは視聴者からコメントが次々と到着。「爆笑解説来た」「感想戦ではおじおじ圧勝」「言葉のチョイス天才」「おじさんはプロだよなあ。こういうところが人気ある理由なのよ」と、絶賛されていた。
(ABEMA/将棋チャンネルより)