今、まさに勢いに乗るイケメン棋士は、非公式戦ながらファン注目の団体戦でも、本気で頂点を目指す。初挑戦の順位戦A級で8勝1敗の好成績を収め、名人挑戦の権利を得た斎藤慎太郎八段(27)。その柔らかい口調と、端正なルックスからファンも多く、「西の王子」と呼ばれることもあるほど。その斎藤八段が「純粋に優勝を目指す」と断言したのが、プロ将棋界の団体戦「第4回ABEMAトーナメント」だ。前回は、佐藤天彦九段(33)から指名を受けて参戦したが、今回はリーダーとして、他の棋士を指名する立場にもなった。「候補は20人ぐらいいます」と、対局同様に念入りに研究してきた斎藤八段。注目のドラフト会議では、どんな棋士を指名するのか。
丁寧で穏やかな話しぶりに、育ちのよさが滲み出るイケメン棋士は第3回大会、“貴族”の異名を持つ佐藤九段に名前を呼ばれ、阿部光瑠六段(26)を加えた3人で「チームまったり」を結成。普段はまったりと、対局になったら真剣に。そんなチームカラーで予選を勝ち抜き、本戦でも熱い対局を見せた。「自身初めてのフィッシャールールでの対局で、なかなか機会のない団体戦での対局で、新鮮だったといいますか、知らなかった経験だったかなと思います。天彦リーダーに引っ張っていただいて、自分もやる気を出せた大会だったかなと思います」と、いろいろと新発見をした。
持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算という超早指しには手を焼いたが、徐々に適応するのは、さすがタイトル経験もあるA級棋士。佐藤九段と渡辺明名人(棋王、王将、36)による持将棋の大熱戦なども目の当たりにしたことで、強く刺激も受けた。
正直、今回引き受けたリーダーという立場は「あんまり柄じゃないというか、自分はまだまだと思っている」ものの、佐藤九段に引っ張ってもらったように、いずれは自分が他の棋士を引っ張る側になる、そうならないといけないとも思っている。
やるからには、素直な性格同様に真っ直ぐに勝ちを目指す。「自由に選ぶというか、優勝を目指せるチームを、人間関係は関係なく、むしろ初めてお会いする方でも選んでいきたいです。できれば出場したことがない方を1人選べたら、新しい大会として視聴者の方も楽しめるのではと思います」と、普段の交流や門下、年齢などまるで気にせず候補者を選んだ。
リーダー棋士の中には、「出たとこ勝負」の人もいる中、事前のシミュレーションはばっちりだ。「今回は(チーム数も増えて)リーダーの人数も増えましたので、絶対に取れるという人がいない。競合する可能性があるということ。この人を取りたいというよりは、幅広く20人ぐらい候補をあげておいて、その中から2人選びたいと思います」と、たった2人の指名に対して10倍のリストを作った。
単にそこから2人、強い順に選ぶわけではない。「1巡目に選んだ人とのバランスで2人目を選ぶというか。昨年チームを経験しましたんで、その3人が合うというか、私以外の2人が合うことも大事だと思うんです。1巡目この人だから、2巡目はこっちと変わるというか、割と幅広く研究はしてきています」。チームワークの大切さを実感したからこそ、自分以外の2人の仲まで検討に入れる、気配りまで完璧だ。
大会期間中には、名人戦七番勝負も入ってくる。それでも参加するからには全力で戦う。「非公式戦とはいえ、みなさんの真剣な姿から公式戦にも準ずるという思いはあります。勝負は真剣の方が楽しいというか、心も熱くなると思うので。私自身も普段の対局の学びになるところが大変多いので、そういう場と思って臨んでいきます。また指名させていただくのも、優勝を目指すというところで、真剣に臨んでいきたいと思っています」と、なんの濁りもない言葉で、堂々と優勝宣言した。声のトーンこそ変わらず穏やかだが、その意気込みはとてつもなく力強い。
◆第4回ABEMAトーナメント 前回までは「AbemaTVトーナメント」として開催。第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦になった。チームはドラフト会議により決定。リーダー棋士が2人ずつ順番に指名、重複した場合はくじ引きで決定する。第3回は12チームが参加し永瀬拓矢王座、藤井聡太王位・棋聖、増田康宏六段のチームが優勝、賞金1000万円を獲得した。第4回は全15チームが参加。14チームは前年同様にドラフトで決定。15チーム目はドラフトから漏れた棋士によるトーナメントを開催、上位3人がチームを結成する。対局のルールは持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チーム同士の対戦は予選、本戦トーナメント通じて、5本先取の9本勝負に変更された。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。