まもなく終わる将棋界の2020年度。振り返ってみれば、ここ数年以上に藤井聡太王位・棋聖の活躍が目立つ一年となった。新型コロナウイルス感染拡大で、日本中が沈みがちになる中、最年少でタイトルを獲得。さらに二冠・八段昇段も達成。デビュー直後からの29連勝で巻き起こった「藤井フィーバー」の再来とも言われた。この状況に地元の愛知県瀬戸市も大盛り上がり。その様子を同じ愛知出身のSKE48鎌田菜月に、今年の活躍ぶりを含めて聞いた。
――3年ぶり2度目とも言える「藤井フィーバー」でした。愛知の様子はどんな感じでしたか。
鎌田菜月(以下、鎌田) またフィーバーでしたよね!全国ニュースで見る機会が増えたのはもちろんですけど、地元のコーナーでも藤井先生の名前はたくさん出ました。「中学生棋士」って言っていたのに、それがもう高校3年生にもなって。藤井先生の環境の変化も、この3年間は目まぐるしかったですよね。新型コロナで沈みがちの時期に、明るいニュースとして将棋の話題が出ることがすごく多かったので、それがとても印象的でした。
――前回と今回、フィーバーの盛り上がりは違いましたか。
鎌田 前回は「何かわからないけど、すごいのが来た!」みたいな感じだったと思うんです。天才の運転する車が来たと思ったら、戦闘機が来ちゃったみたいな(笑)。でも今回はすごいものが来ていることはみんな知っていて、でもその上を行くというか。だんだん藤井先生のすごさに世間がついていけなくなっていましたよね。バグが起こり出したみたいに。将棋の先生たちがYouTubeで、藤井先生のすごさを解説するものを動画で上げているのを見ると、将棋があまり詳しくない人にも「思っているよりもっとすごいんですよ!」というのを伝えたくなります。
――最年少タイトル、二冠達成などの瞬間は地元・瀬戸の商店街も大盛り上がりした様子がニュースでも流れました。
鎌田 すごかったですよ!瀬戸の駅を出たところに「パルティせと」っていう複合施設があるんですけど、そこに寄せ書きもありました。「頑張れ!藤井棋聖!」とか「地元の星だ!」とか「将棋わからんけど頑張れ!」とか(笑)。地元の方々が全部手作りでやっていて、それだけ本当に愛されている人だなと思いました。駅近くの「せと銀座通り商店街」の中継もあったと思うんですけど、あれを見て地元の人からしたら「いつもより人多いな」って(笑)商店街の雰囲気は、ちょっと寂しいね…という感じになっていたところなんです。だから「頑張らなきゃ!」と思っているところに、藤井先生のおかげでたくさんメディアの方が来てくれて、地元を知ってもらえるチャンスがあったのは、とてもよかったと思います。
――18歳にもなり、藤井王位・棋聖の立ち居振る舞い、受け答えも少しずつ大人びてきました。
鎌田 最初の頃は、斜め下を見ながらしゃべる印象だったんですけど、最近だとすごくはきはきというか、笑顔でインタビューを答えている様子も増えた気がします。私の家族の話題にも出るんですが「藤井君ねぇ、あんなに大きくなってねぇ」みたいな(笑)地元に愛されている人だなと思います。
――大活躍した中、2月には卒業も近いと思われていた高校を1月末で自主退学していたことを公表することもありました。芸能界でも仕事と学業の両立が大変、という話は多いですが、この点についてはいかがですか。
鎌田 私と比べるなんておこがましいんですけど、ただ3年間通い続けた学校だから「もったいない」という人もいると思うんです。あと2カ月でしたから。だけど、その2カ月を惜しむぐらい向き合いたいものがあるっていうのは素敵なことですよね。学校でしか得られないものも絶対あると思います。友だちとの時間とか学校祭とか。あと2カ月我慢すれば卒業式もあるわけじゃないですか。でも、芸能界とかもそうですけど、それがなくてもその先の人生がいいって言い切れるものがあるってことじゃないですか。
――自分にとって何よりも大事なもの、藤井王位・棋聖にとっては将棋ですね。
鎌田 加藤一二三先生(九段)もおっしゃっていたんですが「いろいろな個性があるからこの世界がおもしろい」というのもありますよね。いつかこの選択がよかったと思える人生を、藤井先生は歩んでいかれると思うので、そこは何も感想がないというか「あ、そうなんだ」とストレートに思いました。先生たちは将棋を真っ直ぐ指してくれればいいんで、ファンとしては丁寧に報告してくれて「律儀な方だな」と。外野が何言うことなく、応援し続けるだけかなと思います。
――藤井王位・棋聖が通っていた学校は難関の進学校であることでも知られています。
鎌田 とても有名な進学校ですからね。だから「藤井君が出た学校」みたいなものは、いらないと思いますよ。学校側も、藤井先生の今後を考えてのことでしょうし。だから重大ニュースみたいになっていますけど、そんなに驚きはないというか。それに単位があれば、高卒の資格は後でも取れるじゃないですか。今はきっと将棋が一番。他の先生も言うじゃないですか。「若い頃は将棋しか見てなかった。勝ち負けしか考えてなかった」って。だから学校に行っていても、そうでなくても、将棋のことをずっと考えている生活だったと思います。
――藤井王位・棋聖の対局で印象深いものをお願いします。
鎌田 最近の対局で言うなら、藤井先生と渡辺明先生(名人、棋王、王将)の朝日杯ですかね。ネットニュースとかSNSの実況で追っていたんです。渡辺先生、今は最強と言われる先生じゃないですか。藤井先生がだいぶ追い詰められていて「ああ、渡辺先生、強いな」と思っていたところ、時間を置いてまた見てみたら藤井先生が逆転していたから「あれ!?」みたいな(笑)。びっくりしましたね。
――対戦相手が渡辺名人ということもあり、かなり衝撃的な大逆転となりました。
鎌田 気になって棋譜を見せてもらったら、逆転できるところが一筋しかないというのも、すごいですよね。めちゃくちゃ熱い将棋でしたね。プロだからこそ、こういうこともあり得るんでしょうね。歴史に残るというか「やりおったー!」というか。そういう思いでした。
――ありがとうございました。