全国で相次ぐ「道路族」トラブル、地域共同体の失われた日本社会では防止困難?
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 近隣住民の迷惑を顧みず、路上で遊んだり、騒いだりする「道路族」。被害者が自宅を売却したり訴訟を提起したり、さらにはトラブルの情報を共有する『道路族マップ』というサイトが登場するなど、社会問題化している。

・【映像】被害者語る迷惑行為の実態と子ども遊び場問題


​​​​​​​■「耐えきれず、せっかく建てた自宅を売却」

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 関西にある新興住宅地に暮らして8年ほどになるA子さん。自宅は袋小路の一番奥にあるため、近隣に住む子どもたちの声や大人たちの井戸端会議に悩まされてきたという。

 「車はバックで駐車させないといけないのだが、陰から子どもが飛び出すことがあって危ないので、遊ばないよう、主人がお願いをした。すると“お前が通るな”みたいに言われて…」。A子さんは耐えきれず、せっかく建てた自宅を売却、引っ越しを決めた。

■訴訟を提起、近隣住民への賠償命令を勝ち取る

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 同じく関西に暮らすB子さんは、受験を控えた子どもがいたため、「勉強に集中させてあげたい」との親心から、路上で遊ぶ子どもを注意した。すると斜向いの住民男性らからの嫌がらせがスタート。B子さんが設置した防犯カメラの映像にはB子さんの自宅前の路上に座り込み、罵声を浴びせる男性の姿が。警察が出動する騒ぎも起き、やがて心療内科に通うまでになったB子さんは訴訟に打って出る。そして今年2月、男性を含む6名におよそ320万円の賠償金が命じられた。

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 B子さんの代理人を務めた豊福誠二弁護士は「とても辛かったと思う。そして、原因を作っているのは子どもというよりも大人だ。誤解を恐れずに言えば、“大人のイジメ”だ。様々な理由があって“静かにしてもらえませんか”と言っているのに、家の前で怖い形相をされたり、怒鳴り込んだりされる。それが全国で起きている“道路族現象”に共通していることだ」と話す。

■「引っ越したいけど、お金がない」

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 袋小路にある住宅に住んで17年になる及川さん(仮名、関西在住)も、10年以上にわたり「道路族」に悩まされてきた。

 近隣に住む子どもたちが小さいうちは微笑ましく見ていたというボール遊びも、成長するにつれ車や雨戸に当たるようになり、花壇やプランターの植物にも被害が及ぶようになったため、ひらがなで注書きをした。ところがボール遊びは止まず、コロナ禍にはいると同級生を連れてサッカーを始めてしまう。

 限界に達した及川さんが子ども達を注意すると翌日から待ち伏せられ、睨みつけられたり、笑われたりするという嫌がらせを受けた。不在にすると“及川おらんで、今のうちにサッカーしよう”と大騒ぎをしたり、設置した防犯カメラ向けて中指を立てるような仕草をしたりなど、行動はエスカレート。警察に相談したこともあったが、根本的な解決には至っていないという。

 さらに、かつては近所付き合いのあった親たちとも険悪なムードになり、挨拶しても無視されるようになってしまった。「引っ越したいけど、お金がないというのもあって…」。

■「『道路族マップ』、歓迎したい」

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 金城学院大学の北折充隆教授(社会心理学)は、「迷惑行為というのは、誰かが不快になった時点でそうみなされるもの。逆に言えば、遊ぶ側も怒られたことで不快になれば、それも迷惑行為ということになる。どちらの主張も正しい」と話す。

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 しかし、こうした経験に悩む全国の人たちから寄せられる情報をマッピングするサイトも登場している。元被害者によって2016年に立ち上げられ、トラブルが起きた場所のほか、具体的な被害内容まで掲載している『道路族マップ』だ。掲載の可否は管理人が判断、削除要請にも応じているというが、不動産価値への影響も出てしまいそうだ。

 それでも前出の及川さんは「私も登録してもらおうと思って見てみたら、すでに登録されていた。周りの住民が気づいてやってくれたのだと思う。握手したい気持ちだ」と歓迎する。

■「公共の場所とはなにか」という議論を

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「昔の日本の街はうるさかったので、静かになるのは良いことだ。ただ、最近では音が少なくなりすぎて、住宅街を歩いていると、昼間でも人がいないんじゃないか、と思うくらいで、少し抵抗感がある」とした上で、次のように指摘した。

 「紹介されたケースは、いずれも袋小路にある住宅で起きているということだが、大きな住宅のあった土地が売却後に分割されて売り出され、真ん中に作られた道路が袋小路になるというのは、典型的なパターンだ。ただ、住宅がこういう構造になることは昔からあった。それこそ江戸時代の長屋だってそうだし、路地に井戸があって、そこをみんなで使うということはよくあった。

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 ところが戦後民主主義の中で、地域共同体的なものから切り離された自立した個人の確立が目指されていった結果、こういう場面での調整機能が失われ、しかも取り戻せなくなってしまったという側面があると思う。これが菅総理が主張して批判されている“自助・共助・公助”のうちの“共助”にあたる部分だが、逆に日本社会ではムラ的な抑圧を生んでしまうこともある。だからと言って、その調整機能の部分を公権力に頼るのも違う。非常に解決の困難な問題だ。

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 また、団塊世代の大量退職が始まり、高齢者が一気に増えた“2007年問題”との関係もあるかもしれない。しかし、“こっちは子どもの公園”、“こっちは高齢者の公園”のように分ければいいのだろうか。“道路族は悪い”という話になっているが、“保育園がうるさい”と文句を言うような高齢者もいる。どちらが迷惑なのか、どちらが正義なのか、それはケースによっても変わってくるので、どちらかを一方的に断罪するのは違う気がするし、保育園の問題も含め、公共の場所とはなにかという議論を進めて行ったほうがいいのではないか」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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