現在の格闘技界では10代でデビューする選手も多く、年齢差、キャリア差のあるマッチメイクも珍しくない。5月23日のRISE後楽園ホール大会で組まれたのは京谷祐希vs寺山遼冴。32歳でキャリア25戦目、かつてKrushで武尊に勝ったこともある京谷に対し、寺山日葵の弟である遼冴は17歳の7戦目。DEEP KICKのベルトを獲得しているが、まだ新人の枠と言っていい。
差のあるマッチメイクは、京谷と対戦予定だった選手の欠場によるもの。遼冴にとってはチャンスであり、主催者側としてもそれだけのポテンシャルがあると認めたからこそ組んだはずだ。実際、試合はまったくの互角。パンチのテクニックに絶対の自信を持つ京谷は飛び込んでの連打を狙うが、遼冴はステップを使い巧みに間合いを外し、カウンターを放つ。遠い距離でのローキックも効果的だった。
有効打ではやや遼冴か。しかし京谷のアグレッシブさを支持することもできる。結局、甲乙つけがたく本戦、延長戦ともポイントはつかず。試合は引き分けに終わった。
「(遼冴は)うまかったですね。歳が一回り以上違うのに向こうのほうが大人というか。相手の作戦通りになってしまった。僕のほうが子供でした」
試合後、京谷はそう語っている。その遼冴の巧みな闘いぶりを支えたのは、セコンドの那須川天心だった。
1ラウンド、京谷がパンチで詰めてくると「そのタイミング覚えとけ」。その言葉通り、遼冴は試合が進むと京谷の攻撃をかわすようになる。勝負をかけた3ラウンドには「当ててんのお前だぞ」という声が飛んだ。遼冴に自信をつけさせる言葉であると同時に、ジャッジに対してもプラスの印象をもたらしたのではないか。
さらに延長ラウンドでは「相手、効いてるからな」。同時に「(京谷は)右伸ばしてから左くるからな」と具体的な対策も授ける。終了のゴングが鳴ると那須川はガッツポーズ。
ただ結果は引き分けだ。ジャッジに10-9をつけさせるには、もう少し手数が必要だったか。その意味では悔しいドローでもあった。
「考えてたことの3割くらいしか出せなかった」と遼冴。相手のパンチは途中から見えるようになったきたが、そのパンチが硬く、思い切って攻撃することが難しかったという。
ただキャリアで大きく上回る相手に対してのドローという結果は決して恥ずかしいものではないだろう。「悔しいですね...」とうつむいたのは、勝てそうな感触があったからでもあるはず。まして今回は代打参戦、いつもより重い55kgの試合でもあった。
殻をぶち破るとまではいかなかったが、この日の遼冴の闘いぶりからは“大器”感が伝わってきたし、ファイターとして覚醒間近という雰囲気があった。“若手”集団からは一歩抜きん出たと言ってもいい。ここからいよいよ、そのキャリアが本格化していくことになる。
文/橋本宗洋
キャプション
試合後の遼冴とセコンドの那須川天心