逮捕された新人記者は実名まで報じられたのに…指示に関する曖昧な記述は先輩記者を守るため?北海道新聞の「社内調査報告」を読み解く
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 「政府のこの間の対策は感染拡大の見通しの甘さからひとつひとつのタイミングが遅く、内容も不十分だったのではないでしょうか。自らの責任と併せて認識を伺います」「総理は毎回、感染を抑え込むと訴えていますが、約束は果たされず、いつまでこんな生活がだらだら続くのかと、国民の疲労や不信感はピークに達しています」。

 8日の菅総理の記者会見で、そう鋭く切り込んだのは北海道新聞の記者。“国民の声を代弁してくれた”と、ネットでは称賛の声も上がっているが、その北海道新聞が、取材のあり方や、新人教育のあり方をめぐって揺れている。

・【映像】記者逮捕の北海道新聞...社内調査報告が物議?取材方法と教育のアプデは?

■「全部新人記者のせいにしている」…相次ぐ批判

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 ことの発端は、先月22日に旭川医科大で開かれていた、学長を解任するか否かを審議する学長選考会議の最中に起きた、同紙旭川支社の女性記者(22)の逮捕だ。北海道新聞社は今月7日になり、紙面や『どうしん電子版』に聞き取り調査の結果を『社内調査報告』として掲載

 記者が“立入禁止”とされていた会議室の前で発見され、建造物侵入の疑いで大学職員に取り押さえられた背景に「現場に入社1年目の記者もいることを把握しておらず」「“入構禁止”の要請を見逃しており」「キャップや別の記者から、校舎内で身分を聞かれても、はぐらかすように言われていた」など、「情報共有、記者教育に問題点」があったことを認め、「取材方法を指導するべき報道部の部次長や、報道部の業務全体を統括する部長の関与が不十分だった」としている。

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 一方、報告では「全国的にも関心の高いテーマにもかかわらず、メディアの側からすれば旭医大の取材対応は十分とは言い難いものがありました」「さまざまな取材手法を駆使してきました。こうした中で、取材中の記者が旭医大に常人逮捕されるという事態が生じたことは遺憾と言わざるを得ません」とした上で、今回の事件にひるむことなく、国民の「知る権利」のために尽くしてまいります」とする、小林亨編集局長のコメントで締めくくられている。

 この内容に、ネット上ではマスコミ関係者を中心に「全部新人記者のせいにしている」などの批判の声が上がっている。

■会員登録しなければ読めず…「明らかにダメな対応」」

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 今回の社内調査報告の内容を『どうしん電子版』で読むためには会員登録をしなければならないことも非難を浴びている。この問題について『Yahoo!ニュース 個人』に『「道新は死んだ」北海道新聞「社内調査報告」の果てしなき残酷』を執筆した元朝日新聞記者で『DANRO』編集長の亀松太郎氏は「明らかにダメな対応で、この対応を褒める人はいないと思う。変な話、これが記事を書いた動機づけにもなった」と話す。

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 報告によれば、記者はキャップや別の記者から「校舎内で身分を聞かれても、はぐらかすように」と言われていたという。

 「現場には当時、北海道新聞の記者が他に3人いたということなので、おそらくは主力の記者の応援として“お前、ちょっと来い”みたいな感じで呼ばれて行ったということではないか。自分の記者時代の経験からも、詳しい事情を知らないまま新人が現場に行かされるというのはよくある。4日前に大学側と報道の間でトラブルがあったことなども含め、細かいことを知らないままだったということも十分に有り得る。

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 ただ、校舎内に入るよう指示したことについて、キャップが“経験を積ませたかった”と説明しているのは納得できない。先輩記者なら、彼女が新人で、事情も分かっていないということも分かっていたはずだ。にも関わらず、このようなシビアな取材をさせたのはなぜなのか。まだ入社3カ月、本当に右も左も分からないような状態だったのにと、気の毒に思う。

 また、彼女が警察に引き渡されるまで腕章や名刺を出さなかったということなので、要は新聞記者だということが分からないようにして潜入していたのだろう。想像するに、“声をかけられることもあるだろうが、その時には学生を装うなど、上手く誤魔化して逃げろ”というような指示が出されていたのではないか」(亀松氏)。

■「はっきりしません」は指示を出したキャップを守るため?

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 「一方で、構内には当時、他のメディアの記者も送り込まれていたようなので、“抜け駆け”的な取材はしにくかったと思う。それぞれのメディアがどのような動きをしていたのかは分からないが、会議が開かれている部屋の前で聞き耳を立てるというのは、明らかに怪しまれる行動だっただろう。やはり今回の問題で最も責任が重いのは、このキャップだと思う。

 そこで注目されるのが、会議が開かれている可能性のある4階に上がるよう指示したのは誰だったのか、報告では“電話や無料通信アプリのLINEで複数のやりとりがあったため、キャップがこの指示を出したのか、別の記者なのか、はっきりしません”としているところだ。

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 取材現場の感覚で言えば、逮捕されたとはいえ、送検までされるようなレベルではない。情状酌量の余地も十分にある。しかし騒動が大きくなってしまった以上、北海道警もきちんと対応しなければならないと考えている可能性はある。

 ここからは推測になるが、北海道新聞としては、こう考えたのではないか。新人記者の逮捕という事実は消しようがない。しかし北海道警が本気で起訴まで持っていこうとするなら、共同正犯、あるいは教唆犯と従犯のような“共犯関係”と捉え、キャップについても一緒に検挙しようとするかもしれない。しかし、それは避けたいと考えた。逆に言えば、ある意味で記者を守ろうとしているとも言えるのかもしれない」(亀松氏)。

■新人記者は北海道新聞に名前まで報じられてしまったのに…

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 慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は「起訴もされていない現段階では、取材したい側と取材されたくない側のせめぎ合いが、私人逮捕に至るまで激しくなってしまった取材現場があった、というだけで終わるかもしれない話だ。開かれた場所であるはずの国立大学が“ここは取材しないでくれ”と言ったからといって、メディアが一切入らないのが正解だったとは言い切れないと思うし、閉ざされた場所へ行くことがジャーナリズムだ、ということがあるのではないか」とコメント。

 テレビ朝日平石直之アナウンサーは「ただ、この記者は逮捕された翌日には、所属する北海道新聞に名前まで報じられてしまった。一方で、会議が行われている可能性のあるフロアへ向かうよう指示した人物については、むしろLINEや電話なら名前が分かるはずなのに、そうした管理職の行動や責任については詳しい説明がされていない。あたかも現場が勝手にやったことにしようとしているように見えることも含め、新人記者がかわいそうではないか、という論点はあるはずだ。

 また、今回は逮捕されたことで社内調査報告という形で出てきたが、そうでなければ取材の結果が記事として出るだけだったと思う。しかし立入禁止を突破して部屋の前まで行って録音するだけが取材の方法だったのか、読者からも共感が得られる取材方法だったのか、という論点もあると思う」と指摘した。

■“メディアだからいいだろう”というのは特権のように感じる

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 一方、『2ちゃんねる』創設者のひろゆき(西村博之)氏は「総務省の接待問題をめぐる報道で、『週刊文春』は“盗聴”までした。結果、“やっぱり癒着があった”とは言う人はいても、文春の取材方法に問題があったと言う人はいなかった。つまり旭川医大の会議に問題があったのなら、それを盗聴したとしても問題視されることは無かったと思う」と反論。

 その上で、「それでも“入ってくるな”と言われている所に入っている以上、違法行為だと言われるのは仕方ない。一般論からすれば、“起訴すべきだ、有罪にすべきだ”という感覚もあると思う。そこを“メディアだからいいだろう”と言われると、やはり特権のように感じられる」と持論を展開した。

 番組には「入社3カ月で現場に駆り出されたのか。もっと教育をしっかりしてから現場に行かせないとダメだろう」「新人としては、言われたことが当たり前だと思うだろうね。メディアだけでなく、どこの業界も人手不足でOJTとかがぐらついている気がする」などのコメントが寄せられていた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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