親しい関係だからこその、強烈なダメ出しだ。プロ将棋界唯一の団体戦「第4回ABEMAトーナメント」予選Eリーグ第2試合、チーム渡辺とチーム斎藤の対戦が7月11日に放送された。結果はチーム渡辺がスコア5-2で勝利。大会初参加となった戸辺誠七段(34)も2勝1敗と勝ち越したが、対局内容についてリーダー渡辺明名人(棋王、王将、37)からは「ひどい手だったね」「パスの方がマシ」といった遠慮なしのダメ出しが連発された。
渡辺名人と戸辺七段は普段から交流があり、渡辺名人によれば「弟のような」存在。ドラフト時でも、1巡目に前回同様、所司一門の弟弟子・近藤誠也七段(24)を指名したが、2巡目にはアプローチを受けていた戸辺七段を指名。「頑張れよ!」と発破をかけていた。
スコア1-0で迎えた第2局、ついに戸辺七段の初陣となり、相手もよく知る都成竜馬七段(31)と活躍が期待されたが、いざ始まると緊張でガチガチに。「戸辺攻め」とも呼ばれる積極的な姿勢も見られず、そのまま108手で敗れた。
いつもとはまるで様子が違う後輩が戻ってきたところ、先輩・渡辺名人からはきついダメ出しが待っていた。「お疲れ様でした。最初にあれだけひどい将棋を指してくれると、こっちの気が楽になりますよ。あれぐらいひどくてもいいんだと(笑)」と言い放つと、自身の不出来が身に沁みている戸辺七段も「ちょっとボロボロになって。全然真っ白になっちゃって」と反省しきり。その後も、敗戦につながった手について「パスよりひどい手。びっくりしましたよ。プロの将棋とは思えない。もう期待していないから大丈夫」と、文字にするとより強烈なワードが次々と飛び出した。
ただこれも2人の関係性があって成り立つものだ。「もう期待していない」という言葉は、戸辺七段が第4局に向かう直前にかけられたもの。言われた本人も、あえてプレッシャーから解放されるようにという激励と受け取って対局に臨んだ。またしても「途中から頭が真っ白だった」という混戦になったが、なんとか村山慈明七段(37)に勝利。またしても渡辺名人から「いや、ひどい将棋だったね。ははは」と笑われたが、大会初勝利を手にしたことで明らかにリラックスしていた。ファンからは名字の「渡辺」とプレッシャーの「圧力」から「圧力鍋」さらには、攻めに特徴がある戸辺七段を責めたとのことで「戸辺責め」という新語も生まれていたが、これも仲良しぶりを感じてのことだ。
第7局で3局目に登場した戸辺七段は、再び村山七段相手に、形勢が二転三転する内容ながらも、なんとか逃げ切り勝ち。思わず近藤七段が「危なっかしいなぁ」とつぶやく中、渡辺名人は「よし!戸辺さん、根性見せたよ」と短いながらも、優しい言葉で祝福したところにも、関係性が見えていた。
◆第4回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名漏れした棋士がトーナメントを実施、上位3人が15チーム目を結成した。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選、本戦トーナメント通じて、5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)