日本財団は8月31日、4回目となる「自殺意識全国調査」(全国13~79歳の男女2万人が対象)を発表した。主な結果をまとめた「10のファクト」によれば、実に4人に1人が周りの人を自殺で無くした経験があると答えているという。
・【映像】大切な友人が自ら命を...遺された側の思い 追い詰められた人に何を伝えるべき?
声優・ナレーターのあさのますみさんは、大学生だった18歳から1年あまり交際、その後は20年以上にわたって友人関係にあったという男性の自死を経験した。
「私は将来に全く希望が持てない10代だったが、彼と出会ったことで色んな選択肢があるんだなと気づいた。家庭環境が難しい時期に助けてくれた存在でもあったので、恩人というか戦友、とにかく幸せに生きていってほしいとすごく思っていた人だった。私から見て繊細だと思うところはあっても危うさを感じたことは一度もなかったし、まさか死を選ぶとはという感じだった。別の友人から亡くなったというLINEが来た時も、“明けましておめでとう”の連絡が来たのかなという感じだったので、頭が真っ白というか、悲しいという感情が湧いてくる余裕もないというか…」。
男性が亡くなったことを知った翌日、遺書の中に自分宛のメッセージがあることを知ったあさのさん。男性を発見した共通の友人にメッセージのことを聞くために会い、亡くなった経緯や現場の様子を聞き、遺書を見せてもらったという。
「他の人に向けても遺書を書いていたが、彼は死ぬことについて謝り倒していた。こういう気持ちで消えていくんだなということが強烈に残ったが、同じような苦しみを持っている人に“私は何ができるんだろう”とか、“どんな言葉を掛けられるんだろう”ということを繰り返し考えるきっかけにもなった。私に対しては感謝の言葉もたくさん述べてくれていた。元彼だったので複雑な思いはあったが、温かい言葉が嬉しかった。遺書を遺してくれて良かったなと思う」。
男性の遺品の整理にも参加した。それでも、男性が亡くなったと受け止められるようになるまでには、年単位の時間がかかると感じたと話す。
「私が友人を亡くしたことを同僚は知らないので、仕事場では明るく振舞い、感情にギュッと蓋をして暮らしていた。すごく苦しかった。でも遺品整理の場では急に泣き出したりとか、寂しいという話を突然したりしても、みんなが同じ痛みを抱えているので、受け入れてくれる。遺品整理というのは辛い行為ではないかと思われるかもしれないが、生前の彼の話をしながら片付けることが、私にとっては癒しになった。それでも彼の匂いがするようなものをゴミ袋に入れて運ぶ作業の中では、ハッと我に返ることもあった。そういう時、これは家族にはさせられないことだなと思った」。
男性は日記やメモを大量に残しており、うつ病の症状が進行していく様子を自ら記していた。
「最初に見た時は、やっぱり“死にたい”というか“消えてしまいたい”という衝撃的な言葉ばかり拾い読みしてしまい、ちょっとこれは読めないと思った。でも一日一日、しっかり書いてあって、全て目を通すと、基本的には“どうにかどうにか死なずに前を向きたい。以前と同じように、明日を楽しみに生きられるような日々を取り戻したい”という思いが綴られていて、そのための試行錯誤をしていたことも分かった。最初にうつで亡くなったと聞いた時は、まるで置いていかれたような、裏切られたような気持ちが強かったが、改めて、うつというのは病気なんだな、病気の発作が起きて亡くなったのと同じなんだなという気持ちになったし、頑張って生きようとした彼の言葉に励まされる気持ちにもなる」。
こうした素直な気持ちをnoteに綴っていたあさのさん。エッセイをまとめ、今年6月、『逝ってしまった君へ』(小学館)として上梓した。
「彼が亡くなって1年経っても、頭の中の8割くらい常に考えてしまっていた。ただ、亡くなった人がその人にとっていくら大切だったとしても、やはり家族でなければ知人や職場の人たちは知る機会がない。私の場合も、誰にも話せないまま1年が過ぎ、すごく苦しかった。このままで生きていくのが苦しい、でも同じような辛さを感じていて、共有できる人がいるかもしれないと思い、書かせていただくようになった。本になってからは、さらに色んな人が感想を言ってくれるようになった。その8割くらいが、実は身近な人を自殺で亡くしている、もしくは自殺を考えていたことがある、ということだった。その多さに驚いたし、誰にも言えずに苦しんでいた1年間、もっと早く言葉にすることで、より多くの人が“実は自分も”と言ってくれたのかもしれないなと思った」。
■「無理に整理しすぎなくてもいいのではないか」
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「東日本大震災の時、液状化して家屋に被害が出た千葉県の人たちが、“うちも大変な目にあったけど、津波で死んだ人のことを思ったら自分が被災者なんて言えない”とおっしゃっていた。つまり最も重たい悲しみみたいなものがあって、そこからの距離によって悲しんでいいかどうかが決められているかのような感覚を我々は持っているのだと思う。亡くなったのが家族であれば堂々と悲しいと言えても、友人はそうではないのではないかというのも同じだと思う。その意味では、あさのさんが書いた本はこれまでにあまりなかった、大変すばらしい良い本だと思う」とコメント。
その上で、「亡くなった人とどう向き合うのは重要なテーマだ。“死んだ人はもういないんだから、あなたはあなたの人生を生きなさい”と言われたり、なんとか忘れようと努力したりする人もいるが、その必要はないのではないか。これも震災の話だが、家族や知人を津波で亡くした人の場合、もしかしたら助けられたのではないか、との思いから、ものすごく後悔の気持ちを抱いている人達がいる。そこに対して、“悔いが残っている状態を忘れなさい”とは言えないし、むしろ亡くなった方はあなたの側にいるんだから、一生寄り添って生きていけばいいと意見もあると思う。
アメリカのあるスタートアップ企業は、亡くなった友人が書いていたSNSやメッセンジャー、メールのテキストをベースにして、死んだ彼と会話できるチャットボットを作った。肉体としては存在していないが、彼のことを思って寂しくなった友人たちは、そのチャットボットと会話する。それはもちろん過去の会話の焼き直しに過ぎないが、そういう形で死者と付き合う時代になってきている。それは中世のように、生者と死者は近いところにいて、どこかで交わっているんだという感覚に戻りつつあるということでもあると思う。その意味では、無理に整理しすぎなくてもいいのではないか」。
ロンドンブーツ1号2号の田村淳は「6年前からがんを患っていた母ちゃんが去年の8月に他界した。僕は“どうしても遺してほしい”と言って、動画でメッセージを遺してもらった。顔の表情は見えないが、後ろ向きにフラフープを回している映像だった。今も時々見返して、“あーそうそう、こんな感じの喋り方で、実家ってこんな感じ、父ちゃんとの会話の仕方はこんな感じ”って。そういう日常の母ちゃんの姿に救われているところがある、遺書の力はすごいなと思っている」と明かす。
その上で「僕は新学期前日の8月31日になったら学生に向けてツイートするようにしているが、誰にも相談できない、逃げる場所も無いとなった時に苦しみが増し、視野が狭くなって死を選ぶということがあるのかなと思っている。自殺したいという気持ちをすぐに解消することはできなくても、日頃から選択肢を持たせてあげることはできるかもしれない。そこは心掛けたいと思っている」と話した。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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