■「無理に整理しすぎなくてもいいのではないか」
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「東日本大震災の時、液状化して家屋に被害が出た千葉県の人たちが、“うちも大変な目にあったけど、津波で死んだ人のことを思ったら自分が被災者なんて言えない”とおっしゃっていた。つまり最も重たい悲しみみたいなものがあって、そこからの距離によって悲しんでいいかどうかが決められているかのような感覚を我々は持っているのだと思う。亡くなったのが家族であれば堂々と悲しいと言えても、友人はそうではないのではないかというのも同じだと思う。その意味では、あさのさんが書いた本はこれまでにあまりなかった、大変すばらしい良い本だと思う」とコメント。
その上で、「亡くなった人とどう向き合うのは重要なテーマだ。“死んだ人はもういないんだから、あなたはあなたの人生を生きなさい”と言われたり、なんとか忘れようと努力したりする人もいるが、その必要はないのではないか。これも震災の話だが、家族や知人を津波で亡くした人の場合、もしかしたら助けられたのではないか、との思いから、ものすごく後悔の気持ちを抱いている人達がいる。そこに対して、“悔いが残っている状態を忘れなさい”とは言えないし、むしろ亡くなった方はあなたの側にいるんだから、一生寄り添って生きていけばいいと意見もあると思う。
アメリカのあるスタートアップ企業は、亡くなった友人が書いていたSNSやメッセンジャー、メールのテキストをベースにして、死んだ彼と会話できるチャットボットを作った。肉体としては存在していないが、彼のことを思って寂しくなった友人たちは、そのチャットボットと会話する。それはもちろん過去の会話の焼き直しに過ぎないが、そういう形で死者と付き合う時代になってきている。それは中世のように、生者と死者は近いところにいて、どこかで交わっているんだという感覚に戻りつつあるということでもあると思う。その意味では、無理に整理しすぎなくてもいいのではないか」。
母を亡くした田村淳「遺書の力はすごい」
