男性は日記やメモを大量に残しており、うつ病の症状が進行していく様子を自ら記していた。
「最初に見た時は、やっぱり“死にたい”というか“消えてしまいたい”という衝撃的な言葉ばかり拾い読みしてしまい、ちょっとこれは読めないと思った。でも一日一日、しっかり書いてあって、全て目を通すと、基本的には“どうにかどうにか死なずに前を向きたい。以前と同じように、明日を楽しみに生きられるような日々を取り戻したい”という思いが綴られていて、そのための試行錯誤をしていたことも分かった。最初にうつで亡くなったと聞いた時は、まるで置いていかれたような、裏切られたような気持ちが強かったが、改めて、うつというのは病気なんだな、病気の発作が起きて亡くなったのと同じなんだなという気持ちになったし、頑張って生きようとした彼の言葉に励まされる気持ちにもなる」。
こうした素直な気持ちをnoteに綴っていたあさのさん。エッセイをまとめ、今年6月、『逝ってしまった君へ』(小学館)として上梓した。
「彼が亡くなって1年経っても、頭の中の8割くらい常に考えてしまっていた。ただ、亡くなった人がその人にとっていくら大切だったとしても、やはり家族でなければ知人や職場の人たちは知る機会がない。私の場合も、誰にも話せないまま1年が過ぎ、すごく苦しかった。このままで生きていくのが苦しい、でも同じような辛さを感じていて、共有できる人がいるかもしれないと思い、書かせていただくようになった。本になってからは、さらに色んな人が感想を言ってくれるようになった。その8割くらいが、実は身近な人を自殺で亡くしている、もしくは自殺を考えていたことがある、ということだった。その多さに驚いたし、誰にも言えずに苦しんでいた1年間、もっと早く言葉にすることで、より多くの人が“実は自分も”と言ってくれたのかもしれないなと思った」。
■佐々木俊尚氏「無理に整理しすぎなくてもいいのではないか」

