6月6日、キリンチャレンジカップの日本代表vsブラジル代表が新国立競技場で行われる。“セレソン”が日本のピッチに立つのは、2002年の日韓W杯の決勝以来20年ぶりとなる。ビッグクラブで活躍する世界的なスターが多数来日するとあって、チケット争奪戦となったのは記憶に新しい。

 チッチ監督が率いるチームのキーマンとなるのは誰なのか。ブラジル在住の日本人記者が国内メディアの声も交えて紹介する。

 攻撃の中心は、もちろんネイマール(パリ・サンジェルマン)だ。2010年W杯後に初招集されてから12年間、常にエースとして君臨してきた。6月2日の韓国戦で2ゴールを加え、代表での通算得点を73(118試合)まで伸ばした。これは歴代2位で、最多記録であるキング・ペレの77得点までわずか4点に迫っている。

 しかし、これまでW杯では運がなかった。自国開催の2014年大会では準々決勝コロンビア戦で背中に無慈悲な飛び蹴りを見舞われて脊椎を損傷し、準決勝ドイツ戦を欠場。セレソンの歴史的大敗(1-7)をピッチ外から眺めて涙した。

 2018年のロシア大会は、この年の2月に負った故障(右足首骨折)が完治しておらず、体調への不安からシミュレーションを繰り返して世界中のメディアとファンから失笑を買った。

「カタール大会を最後に代表から引退する」と語っており、“3度目の正直”を狙う。主としてトップ下での起用が予想されるが、偽CF、左サイドのMFとしてプレーする可能性もある。12月18日のW杯決勝でセレソンを勝利に導いて世界の頂点に立ち、歴代最多得点保持者として代表に別れを告げるのが現在の最大の望みだ。

■絶対的エースが抱える不安材料

 ただし、セレソンにとって彼は期待のエースであると同時に、最大の不安材料でもある。近年、故障が多く、今季、クラブでは50試合中22試合を欠場。28試合に出場して13得点8アシストで、キャリア最悪のシーズンを送った。フットボーラーに故障はつきものだが、2日の韓国戦前の練習中に古傷の右足を痛めるなど、ささいな身体接触ですぐに傷んでしまう“ガラスの両足”を抱えている。

 また、やはり韓国戦の前にオフの日とはいえ夜通しナイトクラブで酒を飲むなど私生活も乱れつつあり、「常日頃の不摂生が頻繁に故障する大きな要因の一つ」(スポーツドクター)とも指摘されている。

 30歳で、まだまだ老け込む年ではない。しかし、今年のW杯後の代表からの引退を口にし、「将来、試合数が少なくてシーズンオフが長いアメリカでプレーしたい」と口走ってMLSのオーナーから「キャリア晩年の選手が簡単に金を稼ぐために来るべきリーグではない」と反発を受けた。

 若い頃は「大好きなフットボールを毎日プレーできる環境にいて、本当に幸せ」というのが口癖だったが、プレーを続けるためのモチベーションが低下しつつあるのは明らかだ。これは、「世界一の選手になる」という子どもの頃からの夢を実現することがもはや不可能となりつつあることも影響しているのだろう。

 それでも、セレソンでは現在も絶対的なエースの立場にある。それは、チーム全体がネイマールに点を取らせるためにプレーしているからでもあり、彼のプレー内容と振る舞いがチームに与える影響は極めて大きい。さまざまな意味で、W杯におけるセレソンの成績を左右する男であるのは間違いない。

■21歳の超逸材・ヴィニシウス

 このような“諸刃の剣”にも似た現在のエースに取って代わることを期待されている若者がいる。21歳のヴィニシウス・ジュニオール(レアル・マドリー)だ。

 爆発的なスピードと並外れたパワーを発揮して左サイドを引きちぎり、決定的なチャンスを演出し、貪欲にゴールを狙う。唯一の課題はシュートの精度が物足りないことだったが、地道な練習を積み重ねてきたことで急速に改善されつつある。

 今季、クラブで52試合に出場して22得点20アシスト。5月28日に行なわれたリバプールとの欧州チャンピオンズリーグ決勝でチームに勝利とタイトルをもたらす値千金のゴールを決め、さらに自信をつけた。ただし、不安材料もある。これまで、セレソンでは6月2日の韓国戦を含めて8試合に出場しただけで、わずか1得点。なかなか出場機会を与えようとしなかったチッチ監督にも責任があるとはいえ、代表での実績が乏しい。

 その一方で、国内メディアと国民からはW杯での大活躍を期待されており、この巨大なプレッシャーを跳ね返せるかどうか。また、W杯では対戦相手から徹底的にマークされることが予想される。これらの問題や壁をすべて乗り越えて初めて、ネイマールに代わるセレソンの金看板となることができるだろう。攻撃陣でポジションを確保しているのは、トップ下のネイマールと左ウイングのヴィニシウスだけ。右ウイングとCFでは実力者たちが熾烈な争いを繰り広げている。

■セレソン史上最強の守備陣

 ブラジルがW杯南米予選を無敗で突破できたのは、参加10カ国中最少の5失点という鉄壁の守備があったからだ。最終ラインの守備を統率するのが、CBマルキーニョス(パリ・サンジェルマン)。屈強にして状況判断が秀逸で、1対1に強く、カバーリングが巧みで、空中戦にも強い。足元の技術も高く、精巧な縦パスを繰り出して決定機を演出する。味方のセットプレーでは、しばしば貴重なゴールを決める。28歳と年齢的にも油が乗っており、スピードと運動量も申し分ない。ボランチ、右SBもこなせる器用さもある。「史上最強」(国内メディア)と評される守備陣の大黒柱であり、あらゆる意味でチームに欠かせない男だ。

 中盤の守備の要となるのが、MFカゼミーロ(レアル・マドリー)。アンカーもしくは下がり目のボランチとしてプレーする。大柄にして屈強で、対人守備が非常に強く、相手ボールを奪うと確かな技術を発揮して攻撃の起点となる。のみならず、機を見て高い位置まで飛び出し、右足から強烈なミドルシュートを放つ。FKの名手でもある。チームリーダーの一人で、CBチアゴ・シウバ(チェルシー)が出場しないときはキャプテンを務めることが多い。

 最後の砦となるGKは、経験豊かで状況判断が素晴らしいアリソン(リバプール)と左足から驚くべき精度のフィードを供給するエデルソン(マンチェスター・シティ)という世界的名手2人がポジションを争う。あらゆるポジションに世界的タレントを抱えるスター軍団。日本代表にとって脅威になることは間違いなさそうだ。

文/沢田啓明
写真/aflo