カタール・ワールドカップ(W杯)のドロー結果を、日本の読者はどう受け止めたんだろう。

 それにしても、日本は大変なグループを引き当てたね。スペインとドイツと一緒になるなんて、あまりに無慈悲な組分けと言わざるを得ないだろう。
 
 優勝を狙うスペインとドイツに対して勝機はあるんだろうか。

 スコットランドを席巻しているセルティックの古橋亨梧やベルギーで活躍する三笘薫や伊東純也などクオリティーの高いタレントが出てきて、日本サッカーの全体的なレベルは確実に上がっている。これはひとつの心強い要素だろう。
 
 カタールの気候も味方にできるかもしれない。日本の選手たちは高温多湿に慣れているでしょ。2002年の日韓W杯では、ヨーロッパ勢は暑さと湿気に相当苦しんだからね。日本にはカタールでの試合経験もたくさんあるし、これは無視できないアドバンテージだろう。

 対照的に楽なグループに入ったのがイングランド代表だ。気の早いファンは、もう優勝だって有頂天になってさえいるよ。たしかに、アメリカ、イラン、そしてヨーロッパのプレーオフの勝者(ウェールズに決定)と同居したグループBは強敵不在だし、勝ち上がったその先も好ましい組み合わせだ。

 イングランドがグループBを1位で通過すれば、ラウンド・オブ16の対戦相手はグループAの2位だから、おそらくオランダ以外のエクアドル、セネガル、カタールのいずれか。ベスト8までの道筋がはっきりと描ける。準々決勝では、順当にいけばフランスとぶつかることになるけど、ここまできたらもう簡単な相手はいないからね。

 イングランドは直近の2つのメジャートーナメントが4位(前回のロシアW杯)と準優勝(EURO2020)で、カタールW杯のシリアスな優勝候補であることに間違いはない。グループリーグをいかに簡単にすり抜けるかは、優勝するために重要な要素だろう。それでも、この浮かれた楽観論に水を差したくなるのは、自分がスコットランドのサポーターだからだろうか(笑)。

 W杯のドローが何らかの力によって操作されているというのは、昔からまことしやかに囁かれてきたフットボール界の陰謀論だよね。抽選のボールが熱かったり冷たかったりして、ドロワーに分かる仕組みになっているって話は都市伝説化している。

 なきにしもあらず、ってところだろうけど、この手の話題を深追いするのは野暮ってものだ。ミステリアスなものはミステリアスなまま封をして、たまに取り出して楽しめばいいのさ。ひとつだけ言えるのは、イングランドにFIFAを動かすだけの力はないってことだ。
 
 カタールでのW杯は、残念ながらイングランドでは不評なんだよね。最大の理由は簡単には観戦に行けないから。予算の問題だね。ホテルが少なくて、最低でも一泊500ポンド(約7万5000円)はするから、庶民の財布を直撃だ。隣国UAEを拠点にする手もあるらしいけど、宿泊費はそこまで抑えられないだろうし、移動を考えたらそれこそ不経済だ。

 それ以上に切実な問題が、イスラムならではの社会通念や文化・習慣。簡単に言えば、自由にお酒が飲めるのかっていう問題だ。大会期間中は提供されるようだけど、通りに集まって大人数で楽しむいつものスタイルは許されるのか。イングランドのファン(スコットランドやウェールズもそうだけど)は、そのために生きているからね。

 ウェールズの友だちも、出場が決まってもカタールには行かないそうだ。64年ぶりのW杯で、ガレス・ベイルにとって最初で最後の晴れ舞台になるかもしれないのに、だよ。カタールの次の26年大会はアメリカ、カナダ、メキシコの3か国共催で、行くならそっちだな、なんてその友だちは呑気に言っているけど、ベイルはもういないだろうし、行ける保証はまったくないよ、などという正論は言わないでおいたよ。

 ただ、こっちで観戦するにしても、ネックになるのが開催時期だ。11月はもう寒いから、屋外で開放的に楽しむことができない。いつものW杯なら、野外コンサートなんかもあったりしてパブリックビューイングを満喫できるんだけどね、11月じゃそうはいかないから、誰もが不満顔だ。

 それで、みんな考えているのが、スペインやポルトガルの避寒地へ行っての観戦。太陽を追いかけるイングランド人の大移動が見られるかもしれない。

文●スティーブ・マッケンジー(サッカーダイジェスト・ヨーロッパ)

Steve MACKENZIE
スティーブ・マッケンジー/1968年6月7日、ロンドン生まれ。ウェストハムとサウサンプトンのユースでプレー経験がある。とりわけウェストハムへの思い入れが強く、ユース時代からのサポーターだ。スコットランド代表のファンでもある。大学時代はサッカーの奨学生として米国で学び、1989年のNCAA(全米大学体育協会)主催の大会で優勝した。現在はエディターとして幅広く活動。05年には『サッカーダイジェスト』の英語版を英国で手掛け出版した。

※『ワールドサッカーダイジェスト』2022年5月5日号より加筆・修正