森保一監督が率いるここ4年間の日本代表については、個人的にずっと1つの疑問を抱いていた。
 
「攻撃に共通意識や明確なデザインがないのではないか?」
 
 森保ジャパンはここまで、52試合で計115ゴールを挙げてきた。しかし、その大半が偶発的なコンビネーション、そして個人技から生まれていた印象だ。両サイドのウイングとSBからのクロス、田中碧と守田英正を中心とした細かいパスワークなどを除けば、チームとしての攻撃の狙いがほとんど見えない。実際、森保監督は記者会見で、「選手には個性を出してほしい」と半で押したようなコメントを繰り返し続ける。よく言えば個性の尊重、悪く言えば丸投げに聞こえた。
 
 もちろん、代表チームはトレーニング期間がかなり限られるうえ、そもそも寄せ集めの集団でもある。クラブチームのように高度な戦術/組織を練り上げることは難しい。例えばリバプールやマンチェスター・シティと比較すれば、フランス代表やブラジル代表はそれほど緻密ではない。
 
 それでも、チームの拠り所となる最低限の配置や狙い、デザインは必要だろう。日本代表のように個で打開できるワールドクラスのアタッカーが不在で、強豪国には組織で対抗するしかないチームなら尚更だ。11月に開幕するカタール・ワールドカップでは、明らかに格上のドイツ代表とスペイン代表、そしてほぼ同格と見ていいコスタリカ代表とグループステージを戦うだけに、個はもちろん組織をとりわけ練り上げる必要があるのは、誰の目にも明らかだ。
 
 個人的には、森保ジャパンにも最低限の決まり事やメカニズムがあるのではないかと微かな希望を持っていた。それがピッチ上であまり反映されていないだけではないのかと。戦術や組織力が成否を分ける頻度が高まっているモダンフットボールにおいて、チームの共通意識や方向性は最も重要な要素であり、個に頼り切った旧態依然としたチームがワールドカップでベスト8など狙えるわけがない。
 
 しかし、森保ジャパンはともすれば「明確な攻撃の狙い」が欠けているのかもしれない。枠内シュート0本で0−3の惨敗を喫した6月14日のチュニジア戦後、メディア対応時に三笘薫が本音をぶちまけた。
 
「チームとしてもボールを持った時に、ニアゾーンなどを取りにいくことを共有するのか、そういうバリエーションが少ないと感じます。(チュニジアのように引いて守る相手に対しては)ミドルシュートで相手を引き出すとか、そういうチームとしての組み立てをやっていかないと、(個々が勝手に仕掛けて)カウンターを受けるなど、毎試合こういう流れになってしまう。チームとしてどうやって攻めていくか、決まり事ではないですが、色んなものを持たないといけないと思います。個人でのコミュニケーションで、『立ち位置をこういう風にしてほしい』と言っていますが、チーム全員で共有できているかと言われればそうでない部分が多いですし、そこが必要かなと思います」
 
 衝撃的だったのが、「選手個人で立ち位置や狙いの話をするが、それがチーム全体で共有されていない」という部分だ。選手がここまではっきりと指摘したのは現代表でおそらく初めてで、三笘の危機感が見て取れた。確かに、チームのコンセプトや方向性を作り上げて浸透させるのは、選手ではなく監督の仕事だ。
 
 こうした共通認識のなさは、伊東純也や三笘がサイドを突破してもゴール前に仲間が走り込むタイミングが合わない、出しどころに困った末の最終ラインや中盤でのスローテンポなボール回し、出し手と受け手の意識が合わないミス、そしてあまりに拙いセットプレー(アジア最終予選でFKやCKからのゴールはゼロ)など、森保ジャパンの弱点の主因になっている可能性が極めて高い。
 
 5月30日から合宿がスタートし、12回のトレーニングと4試合のテストマッチが組まれた今シリーズの活動は、こうした弱点を改善するうえで絶好の機会でもあった。
 
 しかし、三笘によれば結局は深い部分まで詰められなかったという。「僕はアジア最終予選からチームに入りましたが、その時は本当に時間がなかった。コンディションを優先しなくてはいけなかったですし、チームとして落とし込む時間がないわけではないですが、難しさはありました」と前置きしたうえで、次のように語った。
 
「今回はある程度の時間があって、コミュニケーションを取りながら、チームとして戦術のところもある程度、相手を通して狙いを持てました。ただ狙いの細かさというか、そういう面はより必要だと感じますし、そこは色んな人たちで議論してやってく必要があると思います。僕自身も選手やスタッフの方と色んな話をしながら構築していきたいです」
 
 Jリーグ随一の組織力を誇り、選手が移籍などで入れ替わっても「同じデザインのサッカー」で勝ち続けてきた川崎フロンターレで育った三笘だからこそ、森保ジャパンの「場当たり的な攻撃」にはより一層の違和感を覚えているのかもしれない。
 
 7月のE-1サッカー選手権は国内組で臨む予定だけに、カタール・ワールドカップ前に日本代表がチームを強化できるのは実質的に2試合のテストマッチが予定されている9月、そして大会直前に合宿やテストマッチを組む予定の11月のみ。この限られた時間で、「最低限の共通認識」を作り込むことができるか……。
 
取材・文●白鳥大知(ワールドサッカーダイジェスト編集部)

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