ワールドカップでも目が離せない “赤い悪魔”ベルギー代表の魔術師デ・ブライネの凄さ


ケヴィン・デ・ブライネというフットボーラーの名前を知らないサッカーファンは、世界中探してもそう多くはないだろう。特に日本人のサッカーファンにとってのデ・ブライネは、今から4年前、恐怖の存在として強烈な記憶を残した選手でもある。


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日本代表をどん底へと突き落とした“地獄の数秒間”を演出した男

筆者は今でもあの時の光景を脳内で再生できる。2018 FIFAワールドカップ ロシア(ロシアW杯)のベスト16で、日本代表は後半途中までベルギー代表を相手に2-0で勝っていた。しかし69分、74分に連続的に失点を喫して、2-2に追いつかれてしまう。そして90+4分、地獄の瞬間は試合終了間際に訪れた。

日本代表のコーナーキックをベルギー代表GKティボー・クルトワがキャッチし、自陣ボックス近辺でデ・ブライネがボールを引き取ると、ベルギー代表のカウンターがスタート。日本サッカーファンにとっては、為すすべがない地獄の数秒間が始まる。

ベルギーが誇るチャンスメイカーはボールを受けると、自陣の深い位置からハーフウェーラインまでドリブルで独走。カウンター対策で残っていた数少ない日本代表の選手たちを十分に引き付けると、ボールを右サイドに展開する。

もうこの時点で勝負は決まっていた。

右サイドの高い位置に走り込んでいたDFトーマス・ムニエがダイレクトでボックス内にクロスを送ると、なだれ込んでいたMFナセル・シャドリがネットを揺らして勝負あり。日本代表は2-3の大逆転負けを喫した。

この時、得点を決めたのも、アシストを記録したのも、デ・ブライネではない。しかしながら、あのゴールシーンで最も記憶に残った選手は間違いなくデ・ブライネだった。姿勢の良いスピーディーなボールの持ち運びから、ボールを持っていない日本人選手の全力スプリントをうまく引き付けた。そして冷静な状況判断で右サイドに完璧なパスを送った姿は、多くの日本人のサッカーファンに絶望とセットで強烈な記憶を焼き付けた。

中には敗戦が悔しすぎてそのシーンを何度も見直すうちに、デ・ブライネの美しい所作に惚れてしまい、気づけば毎週のように所属元のマンチェスター・シティの試合を観る“シティズンズ”(=マンチェスター・Cファンの愛称)になった日本人ファンが発生したほどだ。

速い、上手い、そして鋭く的確。それがデ・ブライネの凄さであり、怖さだ。

 

ワールドカップでも目が離せない “赤い悪魔”ベルギー代表の魔術師デ・ブライネの凄さ

最高のパートナー・ハーランド加入でデ・ブライネはさらに高みへ

あれから4年が経った。その間、マンチェスター・Cでデ・ブライネはプレミアリーグを3度優勝するなど、中心選手として黄金期を築いている。そして黄金の右足を持つベルギー人の怖さは今もなお健在だ。

キック精度の高さは相変わらず驚異的で、右サイドの低い目の位置からピンポイントの高速アーリークロスを送ったかと思えば、ボックス近辺では強烈なミドルシュートを両足で放って、相手を絶望に陥れる。もちろんテクニカルなプレーも可能で、2022-2023シーズンの第3節ニューカッスル戦では股抜きスルーパスでMFベルナルド・シウヴァの得点をお膳立てするなど、まさに針の穴を通すかのようなスルーパスも披露している。

なにより本稿の冒頭で描写してきたが、デ・ブライネは実は速い。若かりしころのアルゼンチン代表FWリオネル・メッシのような、アジリティでグイグイ抜くようなドリブルではないものの、スプリント能力が高い上に、技術が高いのでボールを持っても全く減速しない。そのため、いとも簡単に追いすがるDFの前に身体を入れて、優位な状態でキックモーションに入ることができる。

だからこそゴール直結のプレーを量産できる。しかも2019-2020シーズンはリーグ戦で13ゴール20アシストを記録したかと思えば、2021-2022シーズンには15ゴール8アシストを記録している。要するにチーム事情に応じて役割を変え、アシストマシーンにも、驚異的なスコアラーにもなることが可能というわけだ。

そして今季はノルウェー代表FWアーリング・ハーランドという最高のパートナーを手に入れた。大柄な体格とそれに似合わない爆発的な初速の速さを持つ化け物ストライカーが仲間にいるため、デ・ブライネが低めの位置から決定的なスルーパスを通す場面が増えてきている。

その効果はスタッツに現れ始めており、今季のリーグ戦では6試合で1ゴール4アシスト。過去に記録した20アシストを超える期待感がすでにある。ハーランドはデ・ブライネの凄みをさらに引き出す存在になりそうだ。
 

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プレミアリーグでもW杯でも文字通り“目を離せない”存在

こうしてベルギーが誇るワールドクラスのMFは、今年でもう31歳になった。衰えが見え始めてもおかしくない年齢ではあるものの、その予兆はまだない。むしろ年齢を重ねてもプレーの幅と鋭さが増す一方だ。今季のプレミアリーグでも、11月から開催される2022 FIFAワールドカップ カタール(カタールW杯)でも活躍間違いなしで、全く目を離せない存在だ。

この「目を離せない」というのは比喩ではない。デ・ブライネがボールを持った時に、視聴者も相手DFも、少しでも目を離せば、気づいた頃にはゴールが決まってしまうのだから。

(文・内藤秀明)