「セルティックでの日頃のパフォーマンス、そして、直近であればUEFAチャンピオンズリーグ(UCL)でレアル・マドリードと戦った時にもすごくいいパフォーマンスをしていました。シャフタール(・ドネツク)と戦った試合でも彼自身のパフォーマンスは得点も含めていいものを確認できている。旗手(怜央)自身がよさを発揮して、結果を出して、この招集をつかみ取ったと思っています」
9月19日からドイツ・デュッセルドルフでスタートする9月の日本代表合宿。大迫勇也(ヴィッセル神戸)、浅野拓磨(ボーフム)、板倉滉(ボルシアMG)らキーマンたちが相次いで負傷離脱する中、森保一監督が大きな期待を寄せるのが旗手だ。
指揮官が冒頭のコメントを残した通り、旗手は9月6日から始まったUCLグループステージで目覚ましい働きを見せている。
レアル戦では世界的名手であるティボ・クルトワ目がけて強烈シュートをお見舞い。いきなり存在感を示すことに成功する。
そして14日のシャフタール戦では開始早々の10分、自陣で相手ボールを奪ったヨシプ・ユラノビッチが展開したロングパスをセアド・ハクジャバノビッチが受けた瞬間、猛然と50m近い距離をダッシュ。タッチライン際まで走り込んで左足ゴールを決めた。これは相手に当たってオウンゴールと判定され、旗手のUCL初ゴールはならなかったものの、長い距離を猛然とスプリントできるダイナミックさを世界に印象付けたのである。
「UCLで戦えるような選手になれ」という静岡学園時代の恩師・川口修監督の言葉通りの活躍ぶりを見せている旗手。これだけのインパクトを残していれば、森保監督が「呼びたい」と考えるのも当然。案の定、6月4連戦で選外にした24歳のMFの再招集に踏み切った。
「W杯で一番重要なのはコンディション」と吉田麻也(シャルケ)や松井大輔(Y.S.C.C.横浜)ら過去のW杯経験者が口を揃えているように、乗りに乗っている旗手のような人材を今、使わない手はない。2カ月後に迫った2022年W杯前最後の国際Aマッチウイークとなるアメリカ・エクアドル2連戦(23・27日)ではその起用法が注目される。
目下、彼がセルティックで主戦場にしているのは左インサイドハーフ。代表の同ポジションには川崎フロンターレ時代の盟友・守田英正(スポルティングCP)、田中碧(デュッセルドルフ)がいる。
特に守田は旗手同様、ここ最近のUCLでコンスタントに先発し、世界最高峰レベルでも十分戦えるという自信を高めている真っ最中。絶好調な人材という意味では外せない。中盤の大黒柱・遠藤航(シュツットガルト)もチーム不可欠ということを踏まえると、田中碧を上回るパフォーマンスを見せることに集中しかない。3月のベトナム戦(埼玉)しか最終予選を戦っていない彼にしてみれば、なかなか厳しい状況だが、まずはアタックするしかない。
インサイドハーフ候補者は、それ以外にも2018年ロシアW杯16強戦士の原口元気(ウニオン・ベルリン)と柴崎岳(レガネス)、昨季UEFAヨーロッパリーグ(UEL)王者の鎌田大地(フランクフルト)らがひしめいているだけに、本当に競争は厳しい。そこで旗手が一歩リードしようと思うなら、他にないマルチな能力をアピールすることも肝心だ。
前述のシャフタール戦でボランチ的な位置取りを見せていたように、中盤ならどこでもできるのは彼の大きな強み。誰とでも合わせられる柔軟性もある。さらにサイドアタッカー、左サイドバックでもプレーできる。それは1年前の東京五輪や昨季まで在籍した川崎でも実証済み。センターバックとボランチ以外ならこなせてしまう適応力の高さは、W杯のような短期決戦では非常に心強い。そこは森保監督も高く評価している点だろう。
だからこそ、アメリカ・エクアドル戦で幅広い仕事ぶりを見せ、「絶対に必要な人材」だと強く認識させたいところ。特に守備の強度を押し出すことは、ドイツ、スペインという強敵と対峙する本番では欠かせない。相手との力関係を考えれば、ボール支配率で上回られるのは確実。そこで粘り強くプレスに行き、ワンチャンスでゴールを奪いにいくような切り替えの早さ、走力、決定力を旗手が示してくれれば、代表生き残りはもちろん、重要戦力の仲間入りを果たすこともないとは言えない。それだけの可能性を今の彼は漂わせているのだ。
加えて言うと、名門・静学の期待も背負っている。カズ(三浦知良=鈴鹿)を筆頭に過去70人以上のJリーガーを輩出してきた強豪校からW杯に行ったのは、4年前の大島僚太(川崎)ただ1人。その大島はご存じの通り、大会直前にケガをして、まさかの出番なし。主役の座を柴崎に譲る形になった。そんな先輩の悔しさも晴らさなければいけないのだ。
雑草魂でここまで這い上がってきたマルチプレーヤー・旗手。日本が世界でサプライズを起こすためには、彼のような泥臭い選手がいた方がいい。今回の2連戦では恐れることなく、持てる力の全てをぶつけ、日本の新たな希望になってほしいものである。
【文・元川悦子】