イングランドの強豪トッテナムに新加入。攻撃に厚みをもたらすアタッカー
今回は、トッテナムで背番号9を背負うブラジル代表FWリシャルリソンのこれまでのキャリアや代表での活躍、プレースタイルやパーソナリティについて紹介する。
リシャルリソンの現在地を説明する上で、まずトッテナムのチーム状況を説明したい。
イングランドが誇る強豪トッテナムは、昨季の時点で、韓国代表FWソン・フンミン、イングランド代表FWハリー・ケイン、スウェーデン代表FWデヤン・クルゼフスキなど、トップレベルの人員を前線に揃えていた。ただしチームは長らく遠のいているタイトル獲得を目指し、攻撃に厚みをつけるために、ブラジル代表の新鋭を獲得した。
そんなチーム状況でリシャルリソンは、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)やプレミアリーグ6節ではクルゼフスキに代わって右ウイングで先発出場を飾っている。
そしてCLのグループリーグ1節マルセイユ戦がリシャルリソンにとって欧州大会のデビュー戦となり、この試合でチームを2-0の勝利に導く2ゴールを記録した。試合終了後にはスタンドで観戦していた父親と抱擁して大粒の涙を流し、その様子は世界中のサッカーファンから感動の声が寄せられた。
母国ブラジルのフルミネンセで活躍。エヴァートンではエースに成長
母国ブラジルのアメリカ・ミネイロとフルミネンセで台頭したリシャルリソンは、20歳で迎えた17年夏にワトフォードへと移籍し、プレミアリーグへと活躍の場を移した。同じポルトガル語を話すマルコ・シウヴァ監督の全面的なサポートを受けたことで、イングランドの環境にも即フィット。1年目からチームで唯一の全試合出場を果たすなど監督の信頼に応えてみせた。
18年夏にシウヴァがエヴァートンに引き抜かれると、このポルトガル人指揮官はクラブにリシャルリソンの獲得を要請。恩師を追いかける形でエヴァートンへと移籍した。
すると2018/19シーズンの開幕戦でいきなり2ゴールを決める鮮烈なデビューを飾ると、9月にはブラジル代表に初選出、そして自身初のシーズン2桁ゴール(13ゴール)を達成するなど躍進の年となった。
背番号を7に変更して迎えた2019/20シーズンだったが、19年12月にシウヴァは成績不振のために監督を解任。それでもリシャルリソンは継続して得点を量産し、2シーズン続けてのチーム得点王に輝いた。2020/21シーズンには、リヴァプール相手に1999年9月以来となるアウェイでの勝利という快挙を成し遂げ、このブラジル代表FWは先制点を決めて勝利の立役者となった。
自他共に認めるエヴァートンのエースとなったリシャルリソンは、チームが絶不調に陥った2021/22シーズンも孤軍奮闘し、残留争いに巻き込まれていた4月以降だけで6ゴール2アシストを記録。シーズン残り2試合で迎えたクリスタル・パレス戦では、0-2のビハインドから75分に貴重な同点弾を決め、3-2の大逆転勝利に大きく貢献した。「残留」の二文字、そしてクラブ史上2番目に高額な移籍金を残して22年夏にノースロンドンへと旅立っている。
情熱的なプレーでサポーターから愛される存在
前線であればどのポジションでもプレーできる器用な選手である。一般的なブラジル人アタッカーはドリブルでボールを持ちすぎる癖がある。ただリシャルリソンはスピードを生かした仕掛けが得意な上にオフザボールの動きも巧みなため、味方選手との連係から相手DFの背後を狙う動き出しも上手いチームプレイヤーだ。加えて常に相手の嫌なプレーを繰り返すことができる狡猾さも兼ね備える。
またチームのために自己犠牲を厭わない献身的な選手としても知られる。足を止めることなく前線で高い強度のプレスを掛けつつ、状況に応じてはフルスプリントでプレスバックも行う。
このチームのために自己犠牲を厭わない姿勢は「献身性」というプラスの面がある一方で、ビッグマッチなどフラストレーションが貯まる試合になるとラフなファウルを侵すなど、マイナスに働く場面も。
特にダービーマッチになると、その情熱的な性格からライバルクラブを煽る癖があり、ホームサポーターからは愛される選手となるが、ライバルチームのサポーターからは心底嫌われる選手となる。
タレント揃いのセレソンでポジションを掴めるか
エヴァートン加入直後の18年9月に21歳の若さでブラジル代表デビューを飾っている。セレソンの前線にはネイマールやヴィニシウス・ジュニオール、ラフィーニャ、ガブリエウ・ジェズスら実力者が揃っており、スタメンは確約されていない。それでも3月から6月にかけての4試合では4ゴール1アシストとスタメン入りに向けて猛アピールすることに成功しており、11月に開幕する2022 FIFAワールドカップ カタール(カタールW杯)での活躍にも期待したい。
文・安洋一郎
写真:AP/アフロ