サッカー日本代表のカタール・ワールドカップに臨むメンバー発表前、最後の準備が終わった。今回のドイツ遠征では、得るものも多かった。これまでの歩みから浮かび上がってきたチームの現在地、そして本大会への展望をベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生が語り尽くした。

■ドイツは日本など眼中になし

――おふたりの話を聞いていると、良い形でワールドカップに入れそうです。

大住「結果がどうなるは分からないよ」

後藤「前評判が低い時ほど、良い結果が出てきているという歴史もあるしね」

大住「本大会の結果がダメだったという時には、モラルが下がっていたとか、考え違いをしていたという理由があったけど、今回はもしも負けたとしてもよくやったと言えるような大会になると思うよ。森保一監督が担うテクニカルな部分と、日本サッカー協会がバックアップする準備と、全部うまく組み合わさっている」

後藤「本大会まで半年もあるとなったらマンネリに陥るかもしれないけど、もうそんな時間はないから、今の勢いを保てるだろうし。相手が強いから嫌だなと思っていたら、ドイツもスペインも調子が悪そうだし」

大住「絶対に勝てない相手ではないな、という感じはするよね。そういえば、ドイツでは日本のことがまったく気にかけられていないんだよね。アメリカ戦について、現地専門誌のキッカーに記事も写真も出ていないんだよ。普通なら注目するはずなのに」

後藤「他のグループの代表チームじゃなくて、対戦相手なのにね」

大住「最初はドイツに乗り込んで手の内を見せることになってしまうと思ったけど、全然心配なかったね。エクアドル戦の前日にあったドイツのイングランド代表戦の中継で、試合後にレジェンドのローター・マテウスが出てきて、日本を甘くみてはいけないと話していたけど、そう言わなければいけないほど、世間は甘くみているんだよ」

後藤「やっぱり、ドイツ戦に全戦力を投入すべきだよ」

■本大会メンバーは見えてきたか?

――本大会に行く26人は見えてきましたか。

大住「見えてこない」

後藤「20人くらいは見えたんじゃないかな。最後の何人かは、いつも何かが起こり得るんだけど」

大住「最後の数人がどうなるかというのは難しいよね。森保一監督は大変だなあ」

後藤「選手がいる時でも、いない時でも代表監督は最後の数人を決めるのが大変なんだよ」

大住「今回、森保監督の言葉遣いや表情は、ものすごく落ち着いていて、自信にあふれていて、余裕があった。本当にチームづくりがうまくいっているからだろうと思うけど、頼もしいなと思った」

――いずれにせよ、テストは終了しました。

大住「あとはクラブで個々がどういうパフォーマンスを見せられるかという競争だね。自分だけではどうしようもないこともあるかもしれないけど、サッカー選手はそういうものだから。試験が終わって待つのみなのではなく、26人が発表されるまでそういう状態が続く」

後藤「森保監督はここから、いろいろな選手の組み合わせをシミュレーションして、頭がパンクするんじゃないかな。相手がこうだからこちらはこうする、とか」

大住「相手のメンバーを想定して、百万通り考えながら準備することになるね」

後藤「1点先に取られたらどうするとか、2点リードしたらどうするとか。前回大会ではベルギー相手に2点リードするなんて考えなかったから、やられてしまった。今回はドイツ相手に2点リードしちゃった場合も想定しておいてほしいね」

大住「準備をいくらしても想定外のことが起きるのがサッカーだけど」

後藤「そういう時にうまく応できるかどうかは、どれだけ準備をしてきたかに懸かるよね。2大会ワールドカップで指揮した岡田武史さんが言っていた“えい、やあ!”と下す思い切った決断は、完璧な準備があるからこそできるもの。勘だけでやったら大変なことになる」

■森保監督の続投もアリ?

――森保監督自身も成長されたのでしょうか。

大住「彼がこの数年間で成長したかと言われれば、分からない。日本代表監督になった時から、彼の言葉は変わっていないんだよね。口調などは変わっているけど、彼のアイディア、こうやってチームをつくっていきたい、こうやっていきたいというものについては、全然変わっていないから。成長したかどうかは分からない」

後藤「クラブではあれだけ良いチームをつくったものの、代表監督また違う仕事だからどうかなと思ったけど、見事にやったよね。まだやり遂げてはいないけど、ここまでのチームをつくったんだから、代表監督としてもできることを証明したよね。クラブで優秀な人が、必ずしも優秀な代表監督になるわけではないんだから」

大住「彼はまだ若い。これまで日本代表の監督は4年で交代を繰り返してきたけど、もう少し長くやって、もう一段階強いチームをつくるモチベーションを持てるんだったら、長くやってもらってもいいんじゃないかなと思うけど」

後藤「もうその話ですか? でも、僕もここで辞めたらもったいないと思う。本大会の結果を見ないと何とも言えないけど、ここまでやってきたんだからあと4年というのは当然選択肢に入るだろうと思うけどね」

大住「森保一という、自分がクソ真面目であることを信じさせる力を持った監督がいて、選手たちはアピールしなければという考えなどなく、全員がチームのためにプレーして、それが貫かれている」

後藤「ここまでチームとして何をやろうというのが全員に浸透している代表チームは、世界中を見渡してもなかなかないと思うよ。半信半疑だったけど、今回の2試合を見て、チームづくりがここまでうまく行っているのかと思ってびっくりした」