世界中が注目するワールドカップは、新たな選手が発見される場でもある。その国の代表に呼ばれる時点で優秀であることは間違いないが、世界的には新発見であることも少なくない。また、すでに世界的に知られていたとしても、その価値をさらに高めるパターンもある。なかには、価値が再評価された選手もいるはずだ。
新世代アタッカーが続々と台頭 すでにビッグクラブがアプローチ
日本代表から世界に発見された選手としてまず挙げられるのは、MF三笘薫だろう。スペイン戦のゴールラインギリギリからのアシストは日本だけでなく世界中のメディアが取り上げたシーンであり、三笘の存在はより広く知られることになった。
日本代表におけるスーパーサブ扱いだった三笘。ドイツ戦での存在感が影響したのか、第2戦の相手コスタリカは明らかに三笘のドリブルを警戒。しっかり対策を練ってきたあたりからも、三笘が相手の脅威となっていたことがうかがえる。
そんな三笘は市場価値も上昇中。一部メディアは、リヴァプール移籍の可能性も伝えた。今季からブライトンでプレイしている三笘。プレミアでもあの独特のドリブルは恐れられており、今後さらに注目される存在になるはずだ。
鮮烈な2ゴールを決めたMF堂安律や、中盤の軸となったMF守田英正もヨーロッパでさらに評価を高めた格好で、堂安はユヴェントスやローマ、守田はラツィオと早速移籍に関する話題が出ている。堂安に関しては評価額が今夏の4倍に跳ね上がったと英メディアが報道したことからも、評価の急上昇ぶりがうかがえる。まだ24歳であり、もう一段ステップアップを果たしたとしても不思議はない。
ポルトガル代表のFWゴンサロ・ラモスも新発見の部類だろう。今大会で「クリスティアーノ・ロナウドの代役を務めた男」という“称号”を手にしただけに、どうしても注目が集まる。
ゴンサロ・ラモスは、ベンフィカ下部組織出身の21歳。今季国内リーグで好調だったとはいえ、世界的に知られている存在ではなかった。FIFAワールドカップ・カタール大会でも主役になる予感はほとんどなかったが、フェルナンド・サントス監督が決勝トーナメントで先発起用。スイス戦で代表初先発を飾ると、ハットトリックを達成した。
特に鋭い反転からニアの天井に突き刺した1点目は、技術に加えてストライカーの感覚も感じさせる一撃。イングランド代表FWマーカス・ラッシュフォードのような万能タイプのアタッカーだ。
クラブでもC・ロナウドの後釜にと、マンチェスター・ユナイテッドが獲得に興味を持っているという報道もあるが、信ぴょう性のほどは現時点で不明。それでも、今大会で一気に知名度が高まったことは間違いない。
アルゼンチン代表を支えるMFエンソ・フェルナンデスも無視できない。しだいに調子を上げて決勝に到達したアルゼンチンにおいてGSのポーランド戦からスタメンに定着し、奪える・持てる・捌けると、何でもハイレベルにこなせる万能MFぶりを見せつけた。
21歳の同選手は、今年夏にリーベル・プレートからベンフィカに加入したが、そのときの移籍金は1200万ユーロとされている。それがすでに、イングランド代表MFジュード・ベリンガムと並んでレアル・マドリードやリヴァプールへの移籍が話題になるレベルに達しているのだから、夏の市場評価は低すぎたと言えるだろう。
オランダ代表のFWコーディ・ガクポは、今年夏の移籍市場でマンチェスター・ユナイテッドへの移籍が再三話題になっていたため、知名度としてはすでに知られていた。ただ、10番を背負うFWメンフィス・デパイがコンディション面で出遅れたチームにあって、5試合3ゴールの活躍を見せてオランダ代表をけん引したことで、市場価値は跳ね上がったはずだ。
ガクポは得点パターンの多さが魅力の一つ。セネガルとの初戦はヘディング、第2戦のエクアドル戦は左足、第3戦カタール戦は右足と、実際に様々な形でゴールを決めている。ドリブルで仕掛けることもFKで直接狙うこともでき、まさに万能だ。ガクポは今大会、前線だけでなく、トップ下でも起用されている。彼の器用さがあったからこそ、ルイ・ファン・ハール監督は攻撃のオプションを増やすことができた。
引き続きユナイテッドが獲得に動いており、レアル・マドリードもFWカリム・ベンゼマの後継者にリストアップしたと言われている。今大会で世界最高峰の仲間入りをしたと言えそうだ。
アルゼンチン代表のFWフリアン・アルバレスも、大いに価値を高めた一人だ。マンチェスター・シティに所属している時点でトップレベルであることに疑いはないものの、大会初戦はベンチだった。しかし、FWラウタロ・マルティネスの不振も影響して先発の座をつかむと、準決勝クロアチア戦で2ゴール1アシストなどの活躍を見せて躍進に貢献した。今大会はそのスピードを活かしたプレイで4ゴールとはっきり結果を出しており、シティでも今後、アーリング・ハーランドに次ぐ得点源として大きな期待がかかってくるのは間違いない。
堅守に大きく貢献 3位を争った両国の守備職人たち
世界最高峰というのはまだ早いとしても、移籍金がそのレベルに達しそうなのが、クロアチア代表のDFヨシュコ・グヴァルディオルだ。ライプツィヒでプレイする20歳はもともと評価が高かったものの、今大会でクロアチア代表が躍進したこともあり、一気に世界的な選手になった。対人に強くフィードも正確で、非の打ち所がない。準決勝アルゼンチン戦ではリオネル・メッシに突破を許してゴールを決められたが、本気のメッシの間合いで戦ったことは、これからのキャリアでプラスになるだろう。3位決定戦でのヘディング弾も見事だった。
左利きのセンターバックは世界的にも人材が限られるだけに、イングランドの強豪やバイエルン・ミュンヘン、レアル・マドリード、バルセロナなどが獲得に名乗りを上げたとされている。インテルなどは以前から関心を示しているが、あまりのブレイクにもう手が出ないようだ。
クロアチア代表でいえば、GKドミニク・リヴァコビッチも話題になった。日本戦を含め4本をストップしたPK戦での好パフォーマンスは世界中で度肝を抜き、早速バイエルン行きが噂になっている。
再評価という意味では、モロッコ代表のMFソフィアン・アムラバトが挙げられそうだ。アムラバトは2019年夏からイタリアでプレイしており、セリエAでは知られた存在。ただ、そのイタリアでもアムラバトがワールドカップでここまで活躍することは予想されていなかっただろう。
アムラバトは準決勝までに51回のボール奪取を記録。これはアフリカ人選手としてのワールドカップ最多記録だという。そのほか、パス成功率やパス本数、インターセプト数でも圧倒的な数字を残しており、世界を驚かせた。26歳と決して若くないが、ここまで世界に気づかれなかったのが不思議なほどの活躍で、トッテナムやリヴァプールが興味を持っていると伝えられている。一躍ビッグクラブ行きがあるかもしれない。
また、同じモロッコ代表ではMFアゼディン・ウナヒも急激に価値を高めた一人で、プレミアのレスターをはじめ各国からオファーが殺到している模様。こちらも今後の動きに注目したい。
スカウト網が発達した現代では若手の青田買いが頻繁で、一見、ワールドカップのような舞台に新たな発見はないように思われがちだ。だが実際は、まだまだ世界には正しく評価されるべき逸材が眠っていることがこの舞台をきっかけに明らかになった。すでにそういった選手にはビッグクラブが関心を示しており、今冬にもステップアップする選手が現れるだろう。クラブシーンでもW杯での勢いを継続することができるのか注目していきたい。
文/伊藤 敬佑
電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)276号、12月20日配信の記事より転載