日本代表に必要なパワフル・ユーティリティープレーヤー
スコットランドのスコティッシュ・プレミアシップの名門・セルティックに所属するMF旗手怜央。9月のヨーロッパ合宿にはメンバーに入りながらも、アメリカ戦、エクアドル戦ともに1分も出場することなく終わった。
しかし、この悔しさを結果で見返すために、10月最初のリーグ戦でいきなり強烈なゴールを叩き込んだ。
1日に行われたリーグ第9節のマザーウェル戦。1−1で迎えた64分、左CKからのショートコーナーを受けると、斜めに持ち出して迷わず右足一閃。強烈なシュートはドライブ回転がかかった状態でゴール右隅に突き刺さった。
今季初ゴールが決勝ゴールとなり、チームを勝利に導いた旗手。彼こそ今の日本代表において、かなり必要な選手になるのではないかと思っている。その理由は旗手はどのポジションでも強度の高いプレーを見せてくれる『ハイパワー・ユーティリティープレーヤー』だからだ。
アマチュア時代から突出した才能
静岡学園高時代は主にFW、トップ下としてプレー。両足を器用に使いこなし、滑らかなボールタッチを見せる一方で、前へのスイッチが入れば、寄せてきたDFを引きずりながらでも突破を仕掛ける馬力あふれるストライカーだった。シュートも強烈で、勢いよくペナルティーエリア内に入り込んでから放つ一撃は、破壊力抜群。エリア外のシュートも当時から凄まじかった。
順天堂大学でも馬力はさらに磨きがかかった。印象的だったのは、雨で水たまりがあちこちにできている天然芝のピッチでも、変わらぬ馬力を見せていたことだ。水しぶきが大量に舞う中、スピードに乗って一歩、一歩を踏み締めるように力強くドリブルでボールを運び、冒頭で紹介したマザーウェル戦のゴールのように、エリア外から強烈なミドルシュートを突き刺した時は、まさに度肝を抜かれた。
さらに大学では守備に磨きをかけた。大学3年時、「守備面での反応を早くして、プレスバックの圧力やボールを奪い切るプレーを磨いています。僕は身長が高くない分、身体の入れ方でボールを奪うことをかなり意識しています」と語ったように、攻撃面での強度を守備面にも取り入れて、自分の持ち味にしようと努力を重ねた。
その成果はプロに入ってから『新たな才能の開花』で身を結ぶ。川崎フロンターレでは1年目から出番を掴むと、2021年には左サイドバックとしての新境地を開いた。旗手の強度と技術を持ってすれば、自陣から一気にドリブルで駆け上がってフィニッシュに絡めることは予想できた。
その一方で驚いたのは守備面だった。自陣残り30mの守備でも鋭い寄せと体をねじ込む能力を駆使して、ボール奪取力やクロスブロックにも力を発揮。これは大学時代から自らの課題として向き合って、磨き上げてきたことがベースとなったからこそ、突然のコンバ―トにも順応するだけではなく、自分のストロングを活かしたオリジナルのサイドバックとして、自身の評価をさらに高める要因となった。
セルティックへ完全移籍、世界の舞台を駆け上がる
FW、セカンドストライカー、サイドアタッカー、サイドバック。どのポジションでも技術と強度の絶妙なハーモニーを奏でるプレーができることこそ、他の選手とは一線を画す旗手の能力なのだ。
この能力に経験が積み重なって、真っ直ぐ1本の太い芯として旗手の中枢にある。だからこそ、A代表にコンスタントに呼ばれるようになり、昨年は東京五輪にも出場。川崎から今年1月にセルティックへ完全移籍をして、世界の舞台に駆け上がっている。
カタールW杯では与えられたポジションでハイパワーかつ技術レベルの高いプレーを見せ、日本代表を活性化させる存在になることを期待すべく、スコットランドで最終メンバー入りに向けた更なるアピールを見せつけて欲しい。
文・安藤隆人