イニエスタの相棒として才能が一気に開花
9月27日のエクアドル戦に1トップとしてスタメン出場した古橋亨梧。ところが思うように力を発揮できずノーゴールのままハーフタイムで交代を告げられた。不本意な出来ではあったが、これで評価が落ちたわけではない。日本の中で鎌田大地と並ぶほど、点の取り方を知っている男だからだ。
少年時代は全く無名だったが、各年代ごとにストライカーとして必要な要素を取り入れていく。興國高校では、周囲を洞察してからポジションを取るというインテリジェンスと足元の技術を学んだ。中央大学では、力強さと一瞬のスピードを活かす術を覚えた。
そして当時J2だったFC岐阜では、大木武監督(現・ロアッソ熊本監督)に見出され、開幕から全42試合にスタメン起用されたことでプロの世界に素早く順応。プロ2年目の途中でヴィッセル神戸へと個人昇格を果たした。
その神戸では、世界的名手であるイニエスタが、自分のパスを生かしてくれる最高の相棒と称賛。古橋の特徴をフルに引き出したパスを送り続けたことで、古橋の才能が世界レベルにまで開花した。
2021年7月に神戸からスコットランドの名門・セルティックに完全移籍を果たした。指揮官は、横浜Fマリノスを率いてJ1優勝に導いたアンジェ・ポステコグルー監督。日本人をよく知る監督から大きな寵愛を受け、ファーストシーズンでいきなり12ゴールを叩き出し、リーグ優勝に加えてリーグカップ優勝の二冠に貢献した。今季はすでにリーグ7試合で6ゴールを叩き出すなど、チームのポイントゲッターとして躍動をしている。
一瞬のスピードを武器にインテリジェンス溢れるプレーでゴール量産
過去6シーズンのプロ生活でゴール数を2ケタに持っていけなかったのは、ルーキーイヤーのみ。多くのクラブ、指導者と巡り合って才能をコツコツと磨き上げてきたのが古橋亨梧という男だ。
武器は一瞬のスピードとその生かし方にある。自分のスピードとキレを理解していて、それをいつ、どこのタイミングで、かつどの角度で発揮すればいいかをわかっている。例えば相手が高いDFラインを敷いてきたら、1発で裏を狙えるポジションに身を置く。しかもわかりやすくそのポジションにいるのではなく、本来狙っているポジションの1〜5mを微調整しながら、相手の警戒度、DFの特徴をリサーチした上で、一番有効的な形で飛び込める状況を作り出す。
逆にDFラインが深かったり、人数をかけてブロックを敷いてくる相手に対しては、中盤に落ちるだけではなく、DFラインをスラロームするように横切る動きを入れて、相手DFを惑わせてから空いたスペースへと縦に切り込んでいく。
状況に応じて最適解のポジショニングや飛び出しができ、その能力をステージが上がるごとに進化をさせているからこそ、どのクラブ、どのリーグに行ってもゴールを量産できるのだ。
日本代表で古橋の能力を最大限に発揮できる相棒は?
しかし、こと日本代表においてはアジア2次予選のタジキスタン戦以降、12試合連続でノーゴールと結果を残せていない。これを前述した通り、不調と捉えてはいけない。むしろ古橋の稀有な得点能力を日本代表としてどう活かすかを真剣に考えなければいけない。
エクアドル戦で入った1トップは、ボールを収めて捌き、前線で起点となるプレーが求められる。しかし、古橋はそのタイプではない。彼の動き出しに合わせる選手が必要だが、今の日本代表は両ワイドにスピードアタッカーを配置し、そこからの突破を活かすサッカーにウェイトが傾いている。
それゆえに古橋の抜け出しが生かされるのは、サイドからのクロスに飛び込む時になる。だが、一瞬の抜け出しで勝負する特徴をフルに活かすのであれば、その前にボールと関わっておいた方が、食いついてきた相手の裏を効率よく取ることができて、よりゴール前の危険なポイントに飛び込むことができる。
果たして、日本代表で古橋の能力を引き出すのは誰か。個人的には古橋が1トップに入るのであれば、トップ下に鎌田大地を置くことがベストだと思っている。鎌田なら1トップと入れ替わって前線で収めることができるし、運ぶこともパスもフィニッシュにも関われて、古橋のポジショニングとはリンクしやすい。エクアドル戦では古橋交代後に鎌田がトップ下に入った。カタールW杯では見てみたい組み合わせだが、それは実現するのか。
いずれにせよW杯でグループステージを突破し、その先の世界に勝ち進んでいくためには、彼の得点能力を生かさずにしてはもったいなさすぎるほどの存在であることは間違いない。
文・安藤隆人