ワールドカップ・カタール大会でベスト8に進出したい日本だが、グループステージではドイツ、スペイン、コスタリカと同組になった。外から見れば2強2弱であり、日本は後者になる。だからといって、グループステージ突破が不可能というわけではない。幸いドイツはハンジ・フリック体制になってからも改善されていない問題点がある。グループステージの勝ち上がりを考えると、ここで勝点を得ることはマスト。初戦だけにドイツにもプレッシャーがあり、慎重に戦ってくるはずで、むしろ日本にとっては強豪を叩くチャンスといえるのだ。

ドイツはハンガリーが苦手 まずは組織的に粘り強く守る

 2021年、22年の2年間でドイツは4敗している。21年ユーロでフランスに0-1、イングランドに0-2で敗れ、W杯予選では北マケドニアに1-2で競り負けている。22年はネーションズリーグでハンガリーに0-1で敗れている。参考になりそうなのは、格下に足をすくわれた北マケドニア、ハンガリーとの対戦になる。

 先に紹介すると、北マケドニア、ハンガリーはいずれも3バックで、ウイングバックのポジションによっては5バックになる。[3-4-2-1][5-4-1][5-3-2]と表記できる布陣で、彼らはまず組織的な守備でドイツの攻撃を跳ね返し、というか耐え抜き、良いカタチでボールを奪えた瞬間に素早く前方に飛び出して攻撃を仕掛けるスタイルで成功を収めている。

 ちなみに、ドイツはW杯予選をわずか4失点で乗り切っているが、ゴールを破られたのは北マケドニアの他にアルメニア(4-1)、ルーマニア(2-1)で、この両国も3バックで[5-4-1]だった。また、どうもハンガリーが苦手なようで、ユーロで対戦したときが2-2、ネーションズリーグでも1分1敗(0-1、1-1)で、2年間で3試合して勝てていない。

 ハンガリーは各選手が高い集中力を維持し、身体を張って戦うことができるチームである。前線にターゲットとなるサライ・アーダームという絶対的なストライカーがいて、ドイツを自陣におびき寄せ、最終ラインが薄くなったところにカウンターを仕掛けて仕留めている。どうやら、ドイツはこのパターンにウィークポイントがあると考えられる。

 日本としてはボールポゼッションを許し、明らかな劣勢になっても関係ない。ドイツ×ハンガリーを振り返ると、22年9月23日の対戦がドイツ(73%)×ハンガリー(27%)で結果は0-1。6月11日の対戦もハンガリー(33%)×ドイツ(67%)で1-1。W杯予選の北マケドニア戦も69%×31%でドイツが支配したが、勝ったのは北マケドニアだった。

 ただ、これらの試合を参考にするからといって、日本がスタートから3バックで戦うのは現実的ではない。9月23日アメリカ戦のように終盤になって最終ラインを厚くして3バックにするのは考えられるが、最初はこれまで培ってきた4バックでの組織的な守備で対抗したほうがいい。

 そうなると、ロシアW杯グループステージ初戦のドイツ×メキシコが思い出される。このときのメキシコは[4-2-3-1]で、1トップのハビエル・エルナンデスも自陣に戻って守備に参加し、ドイツに攻撃のスペースを与えなかった。ドイツは前線のティモ・ヴェルナーになかなか効果的なボールが入らず、焦れたサイドバック、センターバックなど後方の選手が攻撃参加。その裏のスペースをメキシコが突き、カウンターから決勝点を奪っている。

 各選手が高い集中力を発揮し、組織的かつ強度のある守備でゴールを許さない。良いカタチでボールを奪えたときは前線の頼れるストライカーを起点に素早い攻撃を仕掛け、少ないチャンスをモノにしてゴールを奪う。文字にすると簡単だが、実行するのが難しいこうした展開に日本は持ち込みたい。

焦らすことができればリスクを冒して攻めてくる

[特集/待ってろカタール! 02]初戦こそ背水の陣を! ミラクルではないドイツ叩き
カタール大会に出場すれば4度目のW杯出場となるトーマス・ミュラー。バイエルンに所属しており、ゴールとアシストでドイツ代表に貢献するアタッカーだ photo/Getty Images

 勝点を得るためには失点しないことだが、ドイツは攻撃のコマが豊富だ。[4-2-3-1]がベースで、1トップはヴェルナー、カイ・ハフェルツ、トーマス・ミュラーから選択されるか。いずれもゲームメイクができてゴールもできるタイプで、前線にとどまっていない。サイドに流れたり、中盤に下がったりとプレイエリアが広いので、動きに釣られないことだ。

 やっかいなのはこの3人はトップ下やサイドでの起用も可能で、組み合わせがいくつもあること。なにしろ、ジャマル・ムシアラ、レロイ・サネ、セルジュ・ニャブリ、ルーカス・ヌメチャ、ヨナス・ホフマンなど誰がピッチに立ってもチーム力が落ちない戦力を揃えている。ヴェルナーを1トップに、トップ下に左からムシアラ、ハフェルツ、ニャブリでスタートし、後半途中から突破力のあるサネやヌメチャが出てくるなど実に面倒である。

 とはいえ、これらの選手たちは身体能力が高く、スピード、アジリティもあるが、クリエイティブかといえばそうでもない。ハフェルツの深い切り返しのドリブル、ムシアラのトリッキーなボールコントロールやシュート力、ニャブリの瞬発力などそれぞれケアしなければならないポイントはあるが、複数の選手が連動するショートパスでの崩しは少なく、スペースを与えずに粘り強くついていけば対応できる。

 ボランチでの出場が予想されるジョシュア・キミッヒ、イルカイ・ギュンドアンは視野が広く、精度の高いパスを攻撃陣に供給する。同時に、積極的にゴール前に顔を出してフィニッシュする力もある。このボランチの攻撃参加にも十分に注意しないといけないが、ときには2人とも高いポジションを取り、ゴール前に圧力をかけてくることがある。

 なぜなら、ドイツは格下と戦うとき、これまでの経験から「リスクを冒して攻めないとチャンスを作れない」と考えている。この攻撃力に屈して失点してしまうと、相手の思うつぼで畳みかけられてしまう。ドイツを「リスクを冒さないと」という心理状態にさせて、ダブルボランチ、さらにはサイドバックにも攻撃参加させる。なおかつ、彼らはCBの1枚も高いポジションを取り、攻撃に人数をかけるときがある。かなりのボールポゼッションを許し、劣勢を強いられることになるが、逆にこうした展開になったときこそドイツには隙があると考えていい。

 ニクラス・ジューレ、アントニオ・リュディガー、ニコ・シュロッターベックといったCBでの出場が予想される選手は、たしかに屈強な身体を持ち、高さも強さもある。だが、リュディガー以外はスピードに難がある。ゴールに下がりながら守る選手と、前方へ仕掛ける選手。その仕掛ける選手が伊東純也、三笘薫、古橋亨悟、前田大然であれば、なにかが起きそうである。

プレッシャーがあるのはドイツ 日本の選手は劣勢に慣れている

[特集/待ってろカタール! 02]初戦こそ背水の陣を! ミラクルではないドイツ叩き
鎌田大地は今季絶好調を維持しており、フランクフルトでは間違いなく彼がエースだ。ブンデスで得点力に磨きがかかっており、ドイツ相手にもゴールを奪ってくれるはずだ photo/Getty Images

 すべては日本の守備力にかかっているが、組織的に守るということについては森保一監督のもとずっと推し進めてきたことである。[4-3-3]でポゼッションを高めて攻撃を仕掛けるだけでなく、アメリカ戦のように[4-2-3-1]で自陣にバランスの取れた守備のブロックを作って戦うこともできる。[4-3-3]だとアンカーの遠藤航に相手が狙いを定めてくる傾向がみられるので、ドイツ戦は[4-2-3-1]でいくと考えられる。

 GKは連携や安定感、経験などを重視すると権田修一になるが、シュミット・ダニエルには高さがあるし、シント・トロイデンで積み重ねてきた経験もある。すでにガーナ戦で連携のまずさが出たことをポジティブにとらえると、シュミットでも問題ないだろう。

 最終ラインの中央には、吉田麻也、冨安健洋、伊藤洋輝、谷口彰悟、ケガからの復帰が間に合えば板倉滉といったCBがいる。右サイドには酒井宏樹がいて、左サイドには安定感を増している中山雄太、勝負強さのある長友佑都がいる。冨安、伊藤はCBとSB、板倉はCBとボランチ、酒井は右SBと右ウイングバック、中山は左SBと左ウイングバックで計算できるので、試合途中から3バックへ移行できる。もしリードして終盤を迎えたなら、冨安、吉田、板倉の3バックに、酒井、中山のウイングバックという守備的な選択が可能となる。

 中盤はボールを刈り取る能力が高く、ボディコンタクトを嫌がらず潰しにいける遠藤、守田英正のダブルボランチに頑張ってもらい、とにかく自由にさせない。良いカタチでボールを奪ったら、相手を背負ってキープできる鎌田大地を経由して、サイドあるいは前線へ。右サイドには伊東、左サイドには久保建英とタイプの違うウイングを配置したい。

 重要なのは1トップで、まずはボールを収めることができて起点になれる選手が好ましい。そうなると、先発は大迫勇也か上田綺世という選択になる。このメンバーでとにかく失点をしないで展開すれば、時間が深くなったときに焦れるのはドイツだ。最終ラインが手薄になったなら、ベンチからスタートする三笘、古橋、前田といった選手たちの出番である。このように交代枠を使い切る総力戦で挑めば、少なくとも勝点は拾っていける。

 日本には、板倉、伊藤、遠藤、鎌田、堂安、原口、吉田といった、ブンデスリーガでドイツ代表クラスと鎬を削る選手達がいる。ドイツ代表の主要選手のプレイを肌感覚で知っていることこそ、日本代表にとって最大の武器となるだろう。リーグではバイエルンやドルトムント相手に試合を支配されることがあり、ある意味、劣勢な状況下でも動揺しない経験も積んでいると言える。世界中がドイツの勝利を予想しているが、日本にとってドイツは、数ある強豪国の中でもむしろ計算できる相手。勝ち点を得ることは十分に可能だ。それは決してミラクルなんかではなく、練りに練った戦略で、強度の高いプレイを粘り強く90分間続けることができるどうか次第……。日本サッカーのプレゼンスを飛躍させた大一番として、後世に語り継がれるW杯初戦を期待したい。


文/飯塚 健司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)274号、10月15日配信の記事より転載