チェルシーを支える実力派MF
イングリッシュ・プレミアリーグに所属し、ビッグ6の一端を担う強豪チェルシーだが、今季は開幕から成績不振に喘ぐことに。新オーナーとなったトッド・ベーリーの意向を受けて、一昨季にはクラブにビッグイヤーをもたらした名将トーマス・トゥヘルを6節終了時点で解任。後任にはブライトンで人とボールが動き続けるサッカーで結果を残したグレアム・ポッターを招聘し、チームは大きく生まれ変わろうとしているといった状況だ。
マウリツィオ・サッリ、フランク・ランパード、トゥヘルと監督が変わっても常にチームの主力としての立場を守り続けてきたコヴァチッチだが、ポッターの下でもその立ち位置に大きな変化はなさそうだ。ポッターの初陣であるUEFAチャンピオンズリーグ・グループステージ第2節ザルツブルク戦ではインサイドハーフの一角として先発出場。前体制時以上に長距離を駆け上がるアグレッシブなプレーを見せ、ポッターのスタイルに適応できることを十分に証明したと言えるだろう。
母国の名門ディナモ・ザグレブからレアル・マドリードなどビッグクラブへ
コヴァチッチは母国の名門ディナモ・ザグレブのユースチームで頭角を現し、16歳という若さでプロデビューを飾った。この記録は当時のクロアチアリーグの最年少出場記録であり、疑いようのない才能を持っていることは誰の目にも一目瞭然だった。様々なビッグクラブからの関心が告げられる中、2013年にはインテル・ミラノへ移籍。背番号10を与えられ大きな期待をかけられたコヴァチッチは、得意のドリブルで攻撃を活性化させる役割を担った。
その後、2015年には同胞であり生ける伝説でもあるクロアチア代表MFルカ・モドリッチの推薦もありレアル・マドリードに加入。加入当初は苦しんだものの、2年目のシーズンからはプレースタイルの大幅な変化もあり万能型MFとして開花。欧州最強と言われていたブラジル代表MFカゼミーロ、ドイツ代表MFトニ・クロース、モドリッチの中盤3枚に次ぐ4番手としての地位を確立し、クラシコではアルゼンチン代表MFリオネル・メッシに終始マンマークを行うメッシ番としての役割を任される程に成長した。
結果、レアル・マドリードのCL3連覇に貢献し、自身も大きく成長したコヴァチッチだったが、便利屋という立ち位置で終わりたくないと考え、2018年夏にはクラブに移籍を直訴。その結果、チェルシーへのレンタルが決定した。コヴァチッチは瞬く間にプレミアに順応すると、1年目から左インサイドハーフのレギュラーとしてリーグ戦32試合に出場。2018-2019シーズンはワールドクラスのMFとして一本立ちするきっかけのシーズンだったと言えるだろう。
2019年夏には約4500万ユーロ(約63億円)での完全移籍が決定し、その後のランパード体制でも主力としてプレー。ランパード解任後に就任したトゥヘルの下でもそれは変わらず、2021年には自身4度目となるCL制覇を成し遂げた。
ビルドアップに欠かせないインサイドハーフ
若い頃はトップ下での起用が多く、ドリブル突破とスルーパスで攻撃にアクセントを加えるプレースタイルだったが、レアル・マドリード移籍以降はプレースタイルが一変。高い走力と激しい球際のプレーでチームのインテンシティを底上げしつつ、正確なパスとドリブルでビルドアップを成立させるボランチやインサイドハーフとして高い評価を得ている。
特筆すべきはドリブルの部分で、卓越したコース取りの上手さとボールが身体から離れない繊細なボールタッチによって、相手選手に捕まることなくスルスルと密集を抜けていくことが可能だ。結果、相手の激しいプレッシャーを突破する姿は圧巻である。
また危機察知能力の高さもストロングポイントだ。ボールがこぼれそうな位置を予め予測して潰してしまい、セカンドボールを回収して2次攻撃へと繋げるプレーもチームを大きく助けている。
ポッター就任後は味方のアタッカーを追い越す動きも積極的に行うようになっており、崩しに関与する能力にも磨きがかかりそうだ。
代表引退のラキティッチに代わり中盤の主力へ
インテル在籍時の2013年3月に代表デビューを飾っており、10年近くの代表キャリアを持つが、意外にも主力としての立ち位置を獲得したのは18年のW杯が終わって以降である。
この理由としては、クロアチアの中盤にはモドリッチ、イヴァン・ラキティッチ、ミラン・バデリ、マルセロ・ブロゾビッチら錚々たるメンバーが揃っており、激しいポジション争いが繰り広げられていたからだ
ただし、ラキティッチが代表引退したため、現在はレギュラーとしての立ち位置を確立している。22年6月の代表ウィークではモドリッチ不在時に腕章を巻くなど、監督からの信頼は抜群だ。EURO2020ではベスト16でスペイン代表を相手に敗れ、期待よりも早く敗退してしまったこともあり、11月に開幕する2022 FIFAワールドカップ カタール(カタールW杯)にかける気持ちは大きいはずだ。
(文・加藤亮汰)