「フィールドプレーヤーは長友佑都、吉田麻也、酒井宏樹、谷口彰悟、柴崎岳…」
1日に都内で行われたFIFAワールドカップカタール2022メンバー発表会見。
過去6回の会見はDF、MF、FWの順だったため、森保一監督の「年齢別発表」で気づくのが遅れた人も多かっただろうが、32歳の大迫勇也と31歳の原口元気の名が呼ばれなかった。
2018年ロシアW杯ラウンド16のベルギー戦で“ロストフの悲劇”を味わった攻撃陣の主軸が揃って選外というのは、まさかの想定外に他ならなかった。
「前回大会の攻撃陣が1人もいないというのはスタッフミーティングでも議論になった。経験者の経験は非常に大事だが、経験のない選手たちも『W杯で成功したい』という野心を持って戦ってくれると信じて選考しました」と、指揮官は若い力の成長とブレイクに賭けたことを明かした。
とはいえ、長年、日の丸をつけて共闘してきたベテラン勢には、複雑な感情が芽生えて当然だ。「正直、動揺しました」と酒井が言えば、長友も「2人の落選はビックリした。厳しいことも乗り越えてきた仲間だから」と沈痛な面持ちをのぞかせた。
過去2回出場で1得点の大迫、1回出場で同じく1点の原口という実績ある攻撃陣がいなくなった以上、W杯に複数回出場経験のある川島永嗣、長友、吉田、酒井には“修羅場経験”を確実に還元してもらうしかない。
「彼らの思いも背負ってしっかり責任感を持って戦わないといけない。会見で呼ばれなかった選手たちの分までW杯で結果を残してくることが使命だと思っている」と酒井は強い覚悟を語ったが、ベテラン勢が背負うものはより大きくなったと言っていい。
とりわけ、2010年南アフリカW杯と2018年ロシアW杯と2度の16強進出を体験している川島と長友に託されるものは少なくない。2010年当時、彼らはそれぞれ27歳と23歳。まだ川崎フロンターレとFC東京でプレーする国内組で、世界のトップ・オブ・トップの強さとタフさを知らなかった。
川島に至っては、大会直前の壮行試合の韓国戦までは楢崎正剛の控え。宿敵に0-2で惨敗し、事前合宿地のザースフェー入りした直後、岡田武史監督がテストマッチのイングランド戦からGKを変えて、超守備的な戦い方にシフトすると決断したことで、急遽、チャンスが回ってきたのだ。
「過去に何を自分がやったとかっていうのは正直、自分の中でいらないと思っている。むしろ何の実績も経験もない方が大胆に行けることもある。2010年の時はまさにそうだった」と川島本人も語ったことがある。実際、南アでの川島は気負いの全くない状態で挑み、スーパーセーブを連発。鬼気迫る仕事ぶりでチームを力強く鼓舞した。
改めて思い返してみると、当時は楢崎、川口能活という偉大な先輩に食らいつこうと本当にガムシャラだった。「永嗣みたいにギラギラしてるやつは見たことない」と楢崎も驚き半分に話していた。
今回の久保建英や堂安律ら20代前半の世代は、12年前の川島のようにメラメラと闘志を燃やしてカタール入りするはず。そんな彼らを川島が楢崎や川口のようにうまくコントロールしつつ、“野心”を引き出してくれれば、森保ジャパンはこれまで見たことのないような強さを見せてくれるかもしれないのだ。
長友にしても、12年前の自分と久保や堂安を重ね合わせながら、若者たちを伸び伸びとプレーさせるような雰囲気作りができるはず。普段のトレーニングを見ても、彼ほど常に声を出し、周囲を盛り上げ、いい雰囲気を作ろうとしている人間は他にいない。「佑都はスーパーポジティブ」と森保監督も感心していたが、自分が試合に出ても出なくても、つねにフォア・ザ・チーム精神を忘れず、若手の模範となり、ピッチ上で世界基準を発揮する。まさに“驚異の36歳”がいてこそ、今の日本代表は1つにまとまる。それだけ国際Aマッチ137試合出場を誇るベテランは重要な存在なのである。
「僕は皆さんの素晴らしい批判を乗り越えてきた。苦しくもあり、エネルギーにもなった。批判はガソリンだとよく言ってきましたけど、苦しいことを乗り越えて精神的に強くなった。『メンタルモンスターになれるんじゃないか』と思うくらい鍛えてもらった。それをチームに還元して、躍進につなげたい」と長友は目をギラつかせた。悲壮な決意はきっと後輩たちにも伝わるはずだ。
目下、上記の30代ベテラン勢4人は揃って所属クラブで苦境に直面している。吉田はシャルケで6連敗中とブンデスリーガ最下位に沈み、川島も今季リーグ出場なし。酒井宏樹と長友佑都もチームを勝たせられず、模索を続けている。そういった難しさも含めて、全てのキャリアを凝縮させて、集大成となるW杯にぶつけることが肝要だ。
今こそ、“おっさんたち”の底力を遺憾なく示すべき時である。
取材・文=元川悦子