バイエルンやドイツ代表に欠かせない存在

ミュラーの所属するバイエルンは、ドイツ1部のブンデスリーガで10連覇中と無類の強さを誇る。しかし今季は開幕からやや苦戦している。オフには世界最高峰のストライカーであるポーランド代表FWロベルト・レヴァンドフスキを放出した一方で、各ポジションに即戦力を加えスカッドを刷新。世界屈指の若手監督と評されるユリアン・ナーゲルスマンが指揮を執って2年目となる今季は欧州・国内共に圧倒的な結果を残すことが期待された。しかし、いざシーズンが開幕すると戦術が機能しない試合も多く、リーグ戦では勝ち点の取りこぼしが目立つ。UEFAチャンピオンズリーグでは好調ながら、ここまでは全体的に期待外れのシーズンとなっているのは否めない。

そんな苦しい状況の中でも、ミュラーはチームにとって欠かせぬ存在だ。前線のポジションならどこでもこなし、チャンスメイクからフィニッシュワークまで攻撃のあらゆる局面で高いクオリティを見せている。負傷や新型コロナウイルス感染の影響で短い離脱はあったものの、ここまでリーグ戦8試合に出場して2得点3アシストという成績を残している。

グアルディオラやアンチェロッティなど名将たちに重宝される

ドイツのバイエルン州ヴァイルハイムに生を享けたミュラーは、10歳でバイエルンの下部組織に加入し同チームのユースで育った。2008年8月15日のハンブルガーSV戦でトップチームデビューを飾ると、2009-2010シーズンにキャリアの転機が訪れる。アヤックスやバルセロナなどで実績を残し、若手育成に定評のある名将ルイ・ファン・ハールがバイエルンの監督に就任したのだ。ファン・ハールに抜擢されたミュラーはその起用に応え、リーグ戦全34試合に出場すると13得点11アシストという好成績を記録すると、シーズンのベストイレブンにも選出された。またUEFAチャンピオンズリーグ(CL)でも活躍し、チームの決勝進出に貢献している。翌シーズンのバイエルンは不振に陥り無冠に終わったものの、ミュラー自身はリーグ戦34試合で12得点13アシストと安定した成績を収めた。

2011-2012シーズンにはユップ・ハインケスが監督に就任。ミュラーはファン・ハール体制と変わらず絶対的なレギュラーとして起用され、CLでは2年ぶりに決勝進出を果たしたが、ホームでの決勝でチェルシーにPK戦の末に敗れ、自身2度目の準優勝という苦渋をなめた。ボルシア・ドルトムントに2年連続でリーグ優勝を譲るという悔しい思いをしていたバイエルンだが、2012-2013シーズンには他を寄せ付けぬ強さを見せてブンデスリーガで独走優勝。ミュラーも28試合で13得点13アシストというキャリアハイの数字を残した。またCLでも8得点を記録し2年連続の決勝進出に大きく貢献。チームは決勝でドルトムントに勝利し、3度目の正直で欧州制覇を成し遂げた。

その翌シーズンには世界屈指の監督として知られるジョゼップ・グアルディオラが指揮官に就任する。グアルディオラ体制でもミュラーは主力として起用され、高いパフォーマンスを披露。特に2015-2016シーズンは開幕からチャンスメイクだけでなく決定的な仕事を連発し、自身初となるリーグ戦20得点の大台に達した。だが、2016-2017シーズンから始まるカルロ・アンチェロッティ体制ではチームの戦術に合わず、キャリア最大の不調に陥る。アシストこそ15という数字を記録したが、得点数はレギュラー定着後最低の5に留まった。2017-2018シーズン途中でアンチェロッティが解任され、ハインケスが再任してからは調子を取り戻したが、2018-2019シーズンに就任したニコ・コバチの下では活躍しきれなかった。

そうした状況を変えたのが、2019-2020シーズン途中に発表された現ドイツ代表監督でもあるハンス=ディーター・フリックの指揮官就任だ。フリックは過去にドイツ代表のアシスタントコーチを務めており、ミュラーの起用法を誰よりも理解していた。結果、監督交代を機にミュラーは全盛期の輝きを取り戻し、異次元のパフォーマンスを披露。リーグ戦ではブンデスリーガ新記録となる21アシストを記録し優勝に貢献すると、CLでも圧倒的な強さを見せるチームの原動力となり、自身2度目となる欧州制覇を成し遂げた。ナーゲルスマンが監督に就任した2021-2022シーズンも完全復活を印象付けており、2度の3冠を達成したバイエルンの新たな象徴として君臨している。

得点&アシストで貢献できる唯一無二のアタッカー

飛び抜けた技術や身体能力があるわけではないが、オフザボールの質の高さは世界でもトップクラス。どこでボールを受ければ相手が困るのかを熟知しており、得点でもアシストでもチームに貢献できる唯一無二のアタッカーだ。

たとえパスが来なかったとしても愚直にランニングを繰り返すことで相手の守備陣形を乱し、空いたスペースに的確なタイミングで入り込んで攻撃を活性化させる。中央から右サイドへの斜めのランニングでボールを引き出し、そのままグラウンダーのクロスで得点を演出する形は鉄板。「神出鬼没」という言葉がこれほど似合う選手もいないだろう。

前線から激しくプレスを仕掛けることが多いバイエルンでは、そのスイッチを入れる役割も担う。しっかりとパスコースを切りながら距離を詰めるのが上手く、守備でも非常に高い貢献を見せる。

W杯通算最多得点記録更新なるか? 

2010年3月にドイツ代表デビューを飾って以降、チームの主力に定着。FIFA ワールドカップ ブラジル2014 (ブラジルW杯)では優勝も経験している。W杯に滅法強いことで知られ、計16試合で10得点6アシストという圧倒的な成績を残しているのも特徴だ。

一方、UEFA EUROでは15試合で1アシストのみと好対照の結果になっている。一時はヨアヒム・レーヴ監督の構想外となり代表を離れていたが、2021年6月に約2年半ぶりに復帰すると、フリック政権下でも主力の一員となっている。FIFA ワールドカップ カタール2022 (カタールW杯)では、ミロスラフ・クローゼが持つW杯通算最多得点記録(16点)の更新にも期待がかかる。

(文・加藤亮汰)
 

写真:アフロ