スペインサッカー連盟が11月11日、FIFAワールドカップ・カタール(カタールW杯)に臨む同国代表メンバー26人を発表した。日本代表と同じE組であり、12月1日(日本時間2日)のグループリーグ最終戦で戦う相手である。
スペイン代表は2010年にW杯(南アフリカ)を初制覇した後、グループリーグ敗退に終わった2014年(ブラジルW杯)と、決勝トーナメント1回戦でPK負けした2018年(ロシアW杯)を経て今大会を迎える。平均年齢は25.7歳(大会開幕時点)というルイス・エンリケ監督率いる若き「ラ・ロハ(スペイン代表の愛称)」の実力は、果たしてどれほどのものなのだろうか。
スペイン代表GK:3人
最後尾のGKは、ウナイ・シモン(アスレティック・ビルバオ)、ロベルト・サンチェス(ブライトン)、ダビド・ラヤ(ブレントフォード)の3人。足元の技術の高さが共通点に挙げられるが、序列はハッキリしており、ウナイ・シモンが絶対的な存在。現在25歳ながらユーロ2020、東京五輪と国際舞台を経験しており、鋭い反応とともに自らのミスで失点しながら立ち直った過去を含めて精神力の強さが魅力だ。デ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド)、ケパ・アリサバラガ(チェルシー)の実力者が選外となったが、ウナイ・シモンにアクシデントがなければ2番手、3番手に出番はなく、控えGKの実力は大きな問題にはならない。
スペイン代表DF:8人
DF陣は計8人。右サイドバックには、30歳のダニエル・カルバハル(レアル・マドリード)と33歳のセサル・アスピリクエタ(チェルシー)と経験値の高い2人を選出。前者はバランス型、後者は守備型とやや特色が異なるが、ともに安定感が魅力で実力に遜色はない。左サイドバックは、33歳のジョルディ・アルバ(バルセロナ)と27歳のホセ・ルイス・ガヤ(バレンシア)の2人。24歳のマルク・ククレジャ(チェルシー)ら他にも実力者が揃うポジションだが、これまでの代表での実績を重視。一時は所属クラブで出番を失っていたアルバが10月以降はスタメン出場を増やして試合勘を取り戻しているのは朗報だ。
センターバックは、21歳のエリック・ガルシア(バルセロナ)、22歳のウーゴ・ギジャモン(バレンシア)、25歳のパウ・トーレス(ビジャレアル)に28歳のアイメリク・ラポルテ(マンチェスター・シティ)の4人。いずれも巧さが特徴で、高いパス能力で攻撃を組み立てる「サリーダ・デ・バロン」の名手たちだ。
ただ、対人能力はそれほど高くなく、予測能力は優れているが、スピードは凡庸。ハイライン設定の裏を取られた際には明らかな弱さを見せる。しかし、その脆さを承知で「ボールを繋ぐ」のがスペインの揺るがないコンセプト。様々な組み合わせで試合経験も重ねており、代表復帰が取り沙汰されていたDFセルヒオ・ラモス(パリ・サンジェルマン)の落選も、ここまでのチーム作りを振り返ると真っ当な判断だった。
スペイン代表MF:7人
MFは計7人。中心はアンカーを務めるセルヒオ・ブスケツ(バルセロナ)。現チームの中で2010年のW杯制覇を知る唯一の男で、抜群のポジショニングとキープ力からのゲームメイク能力はピカイチ。34歳となった今もチームの心臓であり、スペインサッカーの表現者として欠かせない。さらに控えのロドリ(マンチェスター・シティ)も所属クラブでグアルディオラの指導を受け、アンカーとして世界屈指の能力を持つ。ブスケツが軸にはなるが、ユーロやネーションズ・リーグ同様、過密日程の中でロドリの出番は必ずあり、試合途中からセンターバックにポジションを移すパターンもある。
インサイドハーフは5人で、19歳のペドリ(バルセロナ)、18歳のガビ(バルセロナ)、27歳のマルコス・ジョレンテ(アトレティコ・マドリード)、30歳のコケ(アトレティコ・マドリード)、25歳カルロス・ソレール(パリ・サンジェルマン)というメンバー。
様々な組み合わせが考えられるが、いずれも高い技術を有すると同時に豊富な運動量でハードワークできるのが特徴。ペドリ&1ガビのバルサのゴールデンボーイ賞コンビがファーストチョイスになるが、両者ともに途中出場でも能力を発揮して試合の流れを変えることができるため、前半戦をアトレティコ組で臨んで激しく相手を消耗させた上で、ペドリ&ガビを投入する戦法もある。ミケル・メリーノ(レアル・ソシエダ)やチアゴ・アルカンタラ(リバプール)も選出したかったが、致し方ない。
スペイン代表FW:8人
そしてFW陣は8人が選ばれた。名前を読み上げられた順に、22歳のフェラン・トーレス(バルセロナ)、20歳のニコ・ウィリアムズ(アスレティック・ビルバオ)、20歳のジェレミ・ピノ(ビジャレアル)、30歳のアルバロ・モラタ(アトレティコ・マドリード)、26歳のマルコ・アセンシオ(レアル・マドリード)、30歳のパブロ・サラビア(パリSG)、24歳のダニ・オルモ(ライプツィヒ)、そして20歳の“至宝”アンス・ファティ(バルセロナ)という面々だ。
間違いなく高い総合力
その数の多さとともに純粋なセンターFWタイプがモラタのみというのが、今回のメンバー編成の特徴。アンス・ファティは中央も可能で、ダニ・オルモに加えてアセンシオを偽9番として起用するプランにも目処が立ったとは言え、それが本大会でどこまで機能するかは未知数。今季の国内リーグでスペイン人トップの8得点を挙げているボルハ・イグレアシス(ベティス)や6シーズン連続2ケタ得点と実績十分のイアゴ・アスパス(セルタ)の落選、ミケル・オヤルサバル(レアル・ソシエダ)の故障からの復帰が間に合わなかったことを嘆くことになるかも知れない。
だが、総合力は間違いなく高い。これまでの戦いを踏襲するなら、モラタ、フェラン・トーレス、サラビアの3人のスタメンが濃厚だが、その他のメンバーが出ても戦力が落ちないのがチームの強みであり、前線の招集人数を考えても後半に一気に2枚交代、3枚交代での戦況打開が指揮官の頭にある。その中で、圧倒的なスピードで右サイドを切り裂くニコ・ウィリアムズ、そして4度の手術を経てメンバーに滑り込んだアンス・ファティが切り札になる。
システムは一貫して4-3-3
メンバー発表会見では、大型ビジョンが設置されたステージ上にルイス・エンリケ監督がジャケット&ヘッドセットマイク姿で登壇し、BGMが響く中で力強い言葉で選手の名前を一人ずつ読み上げた。その派手な演出方法に反して選出メンバーに大きな驚きはなかったが、それはすでにチームが固まっていたという証拠でもある。
システムは一貫して4-3-3。DFラインから丁寧にパスを繋ぎ、相手陣内での即時奪回で圧倒的な「ボール保持力」がチームの武器。一人で試合を決められるストライカーは不在だが、交代枠をうまく利用しながら90分のゲームプランの中で相手のスタミナと反撃能力を削ぎ、総合力で押し切る。最後までボールを握り続けた中で、アンス・ファティが以前の決定力を大会中に取り戻すことができれば、ベスト4はもちろん、それ以上の成果を得ることは十分に可能だ。
注目の日本対スペイン戦
そして何より、カタールW杯では日本代表と同じE組であり、12月1日(日本時間2日)のグループリーグ最終戦で戦う相手であること。チーム力は確実にスペインが上で、ボール支配率で日本が上回ることは考えられない。だが、日本にはカウンターサッカーに適した人材がいる。若きルイス・エンリケ軍団にとっても、楽な相手ではないはずだ。まずはグループリーグ2試合(日本は11月23日対ドイツ、27日対コスタリカ)を終えて、どれだけの勝点を手にしているかに注目したい。