●ベスト8へ必須となる若手の押し上げ

 サッカー日本代表はFIFAワールドカップカタール2022でラウンド16敗退という結果に終わった。悲願のベスト8を成し遂げるためには、若い世代の成長は必須。しかし、パリ五輪世代(2001年以降生まれ)を含めた若い世代は、強化策に悩まされているという。その実情とは?(取材・文:元川悦子【カタール】)
——————————————————–

 4年後の北中米ワールドカップでベスト8進出を果たすため、今回の森保ジャパンを押し上げた東京五輪世代(97~2000年生まれ)の個々のレベルアップが必須であることは、前編でも書いた。カタールW杯で評価をさらに上げた板倉滉、堂安律らには、いち早くUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント常連クラブへのステップアップを果たしてほしいところだ。

 とはいえ、彼らのような20代中盤の面々が飛躍するだけで日本代表が強くなるわけではない。東京五輪世代より下のパリ五輪世代(2001~2004年生まれ)から急成長してくる選手が続々と現れないと、代表はいずれ停滞してしまう。若手の突き上げというのは、いつの時代も必要不可欠の重要テーマなのだ。

 実際、今大会を見ても、ラウンド16までの段階で3ゴールを挙げているポルトガル代表のゴンサロ・ラモスとイングランド代表のブカヨ・サカ(アーセナル)は21歳。スペイン代表のアンス・ファティやペドリ(バルセロナ)は20歳だ。

 さらに言うと、イングランド代表のジュード・ベリンガム、ドイツ代表のジャマル・ムシアラとユスファ・ムココ、スペインのガビらは10代で堂々と世界と渡り合っている。

 数年前までは久保建英がそういった成長曲線を辿ると期待されたが、現状はその通りには行っていない。日本も若手台頭を加速させなければ、世界に遅れを取ることになる。

●育成年代が強化の機会を失った実情

 危機感の強まっている日本代表に立ちはだかったのが新型コロナウイルスの蔓延だ。2020~2022年の約3年間、厳しいコロナ規制が敷かれていた島国・日本では海外との行き来が困難になり、育成年代の海外遠征がストップしてしまった。特に割を食ったのがパリ世代。鈴木唯人や荒木遼太郎ら2001~2002年生まれが出場するはずだった2021年のU-20W杯が中止になり、強豪と公式戦で真っ向勝負するチャンスがなくなってしまったのである。

 パリ世代の下の2学年に当たる2003・2004年生まれの世代はもっと大変だ。休校や部活動停止、高校総体中止などが続き、海外へ行くどころか、対外試合の機会さえも激減してしまったからだ。

 それに該当するのが、今年高卒プロ1年目だった松木玖生、北野颯太、甲田英将、中村次郎、坂本一彩ら。ユース年代で外国人選手とガチガチとぶつかり合ってこなかった彼らの国際経験不足は明らかだと言わざるを得ない。

 それを象徴したのが、今年5~6月にかけてフランスで行われたモーリス・レベロ・トーナメント。U-19日本代表はU-21アルジェリア代表に辛くも勝利したものの、U-21コモロ代表・U-19コロンビア代表に苦戦。5・6位決定戦でもU-20アルゼンチンに敗れ、世界の壁に跳ね返されたのだ。

 同大会に参戦した19歳の横山歩夢にしても、得意のドリブル突破を試みても屈強な外国人DFを抜き切れず、ボールを奪われるシーンが続出。「もっと個の打開力を身に着けないといけない」と本人は神妙な面持ちで語っていた。

●「今のU-19世代はかなり小粒」

 同大会をチェックしたというシント=トロイデンの立石敬之CEOも「5年前のU-20日本代表だったのが、板倉、堂安、冨安、久保ら今の東京五輪世代。彼らに比べると今のU-19世代はかなり小粒という印象が否めない」とコメントしていた。

 確かに、今季のJリーグでも主力として戦い抜いたのは松木くらいしかいない。多くの選手が出場機会をつかめず苦しんでいる。そんな実情を見ると、立石CEOの見方も頷ける。

 数年前まではFC東京、ガンバ大阪、セレッソ大阪がU-23チームをJ3に参戦させており、そこで揉まれて成長することができていた。堂安も久保もU-23での試合経験を糧に飛躍し、トップでレギュラーをつかみ、海外への挑戦権を得ている。が、そういった環境もなくなり、試合経験の場がなくなれば、若手が伸びるはずがない。

 さらに痛かったのが、今回のカタールW杯のトレーニングパートナー10人の参加が取りやめになったこと。直前のスペイン遠征でコロナのクラスターが発生し、松木や北野、甲田らにとっては世界トップ基準を体感する貴重な機会が失われた。これも大きなダメージになりかねないのだ。

 ここ最近は尚志高校からシュツットガルト入りしたチェイス・アンリ、神村学園高校からボルシアMG入りする福田師王のようなルートも生まれているが、彼らがすぐにトップチームで活躍できるわけではないだろう。「高校から海外クラブ」という進路がプラスかマイナスかというのもまだ何とも言えない部分があるのだ。

●大会方式も変更。問われる強化方針

 これまでは「プロに行って試合に出られないなら大学で自分を磨き上げた方がいい」と考える三笘薫のような人材もいたが、大学の方もユニバーシアードからサッカーが除外されるなど、国際舞台がなくなっている。その穴を埋めるために、2023年に延期されたアジア競技大会を大学生中心のチームで戦うことを協会側は検討しているようだが、それもうまくいくかどうか分からない。日本サッカーの20歳前後の選手育成は本当に難しいのだ。

 コロナという特殊事情も重なって国際経験不足が顕著のパリ世代。彼らを急成長させる術を、日本サッカー協会としても早急に見出さなければ、4年後の8強という目標達成は難しくなる。コロナで海外遠征を阻まれた世代に集中的に国際経験を積ませるなど、これまでとは異なるアプローチが必要になってくるだろう。

 パリ五輪世代のタレントたちをスムーズに伸ばし、東京五輪世代、さらに30代になる遠藤航や浅野拓磨、南野拓実らベテラン勢と融合し、最良のバランスの集団ができてこそ、4年後の成功が見えてくる。

 次からは出場国が48に増え、アジア枠が拡大。予選が比較的楽になるのに、本大会のハードルは上がるという困難な環境が生まれる。そこにも適応しながら、日本代表を勝てるチームにする作業は容易ではない。ドイツ代表やスペイン代表を撃破したことで浮かれている余裕はない。高い意識を持って、新たなスタートを切ることが肝要だ。

(取材・文:元川悦子【カタール】)

【前編】世界のトップは「遠く感じる」日本代表が感じたベスト8入りへの課題
英国人が見た日本代表対クロアチア戦「日本サッカーは…」「三笘薫は人間じゃない」