[カタールW杯グループステージ第3戦]日本 2-1 スペイン/12月1日/ハリファ国際スタジアム
日本代表はグループステージの3試合目でスペインに2-1と逆転勝利。堂々のグループ1位で突破を決めた。
前半に1失点しながらも耐えて、後半のギアチェンジで一気に逆転という流れに。最後はスペインが2位通過も良しとしてか、無理に攻めてこなかったことはあるにしても、失点すれば敗退という、傍目にはスリリングな状況で、手堅い守備でクローズした。
両チームの選手交代の意図と、どれだけ効果があったのかを見比べると、この試合の分かれ目が浮き彫りになる。結論から言えば、選手交代に関しては森保一監督がルイス・エンリケ監督のプランを上回ったと言える。
「まずは5-4-1で相手にボールを握られてもしっかり守るということで、選手たちが実践してくれた」と森保監督。0-1で迎えた後半のスタートから三笘薫と堂安律を投入した。
長友佑都と久保建英が下がったが、森保監督は「前半、頑張って、粘り強く、我慢強く戦ったなかで繋げてくれた選手がいたからこそ。後半、良い形で攻撃に移っていくことができた」と強調している。おそらく長友と久保に対する言葉だろう。
後半のスタートからハイプレスに転じた日本は、3ー4ー2ー1の右シャドーに堂安、左ウイングバックに三笘を入れて、右は伊東純也が1つ下がる形となった。ただ、どんどん前からプレッシャーをかけるので、3-2-5のような形になり、スペインのビルドアップさえも慌てさせた。
48分の堂安によるゴールは、前田大然のGKウナイ・シモンに対するチェイシングから、スペインがサイドに回避したところを伊東が狙って奪ったところからだった。
2点目も、ロングボールから伊東、堂安とつないで、クロス気味のシュートが抜けたところから、ラインギリギリで三笘が粘り良くつないで田中碧が押し込んだ。
スペインのL・エンリケ監督は、後半のスタートから右SBにレアル・マドリー所属のダニエル・カルバハルを投入。1対1の守備能力に定評のある選手で、攻撃での推進力もあるカルバハルだが、同サイドの攻防は日本の勢いのなかで三笘が上回った。
追いかける側になったスペインはアルバロ・モラタとニコ・ウィリアムスに代えて、前線にフェラン・トーレスとマルコ・アセンシオを投入する。
高さで勝負するモラタをめがけたクロスが無くなり、“ゼロ・トップ”としてワイドに流れるアセンシオが入ったことで、右からの仕掛けが増えた。しかし、再び5バック気味に構えた日本は三笘と鎌田が粘り強く対応する。
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日本は62分、前半から精力的な守備をしていた前田に代えて、フレッシュな浅野拓磨を入れて、プレスの強度を維持しながらカウンターの脅威を高めた。
浅野は堂安、伊東、三笘とともに縦の推進力を出すことで、スペインのラインを下げる働きをしたのは大きい。おそらく前田と浅野は2人で90分というプランだったのだろう。
ただ、日本は前半だけで3バックの板倉滉、谷口彰悟、吉田麻也の3人がイエローをもらっていた。ペドリとガビにそれぞれ入れ替わられた板倉と谷口はともかく、吉田のファウルは不可解だった。
どうであれ、CB3人にイエローが出たことで、冨安健洋をどう出すか森保監督も悩んだようだ。
森保監督は「3人のセンターバックがイエローをもらっていたので、どこまで我慢すべきか、もしかして退場者が出るなかでの決断は難しかった」と語る。
しかし、スペインが左サイドに攻撃的なSBのジョルディ・アルバと20歳のアンス・ファティを2枚替えで投入しようとしているのを確認して、右ウイングバックで冨安を起用することを決断した。
鎌田がアウトしたことに伴い、伊東は左のシャドーになった。非常に効いていたのが冨安で、A・ファティに何もさせず、試合から消しながら、前に出てくるジョルディを堂安と協力しながら抑えた。
スペインは左の翼をもがれた状態になった。冨安という強力な守備のカードをベンチに置いていたアドバンテージもあるが、この交代策は森保監督の“神采配”と言える。
同サイドをほぼ無力化されたスペインは攻撃が右サイドに偏った。アセンシオが右に流れたところから左足で何度も狙ってきた。東京五輪の悪夢のゴールを思い出させる雰囲気はあったが、三笘や伊東が身体を張り、シュートも権田修一がセーブした。
終盤には負傷明けで心配された遠藤航が、殊勲のゴールを決めた田中碧に代わってバイタルエリアを守り抜き、試合をクローズした。
伝統的なプレーモデルのなかでディテールを突き詰めるL・エンリケ監督に比べて、森保監督のほうが柔軟な発想でカードを切りやすいということがあるにしても、選手たちが期待に応えたことを含めて、5枚の交代カード全てで効果を出した森保監督に軍配が上がったと言える。
取材・文●河治良幸