いよいよ開幕を迎えるカタール・ワールドカップ。森保一監督が率いる日本代表は、いかなる戦いを見せるか。ベスト8以上を目ざすサムライブルー、26の肖像。今回はDF酒井宏樹(浦和)だ。

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「僕は(2014年ブラジル大会、18年ロシア大会に続く)三度目のワールドカップ(W杯)になりますけど、初めての大会として行きたい。いろんな経験が足かせになることもあると思うので、フレッシュな気持ちで戦いたいです」

 日本代表の不動の右SB酒井宏樹は、32歳で挑むカタールW杯で「チャレンジャー精神」を前面に押し出す構えだ。

 惨敗したブラジル大会、8強にあと一歩と迫ったロシア大会から得た教訓は数多いが、過去の経験値だけで戦おうとしていたら、ドイツ・コスタリカ・スペインという強豪揃いのグループは勝ち抜けない。

 2012~21年まで欧州で9年も戦い抜き、チャンピオンズリーグにも参戦してきた男は、厳しい現実をよく認識している。だからこそ、フレッシュなマインドでぶつかる必要性を痛感しているのだ。

 酒井がA代表デビューしたのは、アルベルト・ザッケローニ監督時代の2012年。ロンドン五輪代表で実績を積み上げ、頭角を現した若きSBの強度とタフさがイタリア人指揮官に高く評価されたからだ。
 
 とはいえ、当時は第一人者の内田篤人が君臨。控え組に甘んじ、ブラジルのピッチに立つことはできなかった。

 その後、内田の膝の状態が悪化。代表から遠ざかったタイミングで酒井が急成長。とりわけ、ハノーファーからマルセイユへ移籍した2016年夏からの躍進は目覚ましいものがあった。

 フランスでネイマール(パリSG)ら世界最高峰のアタッカーとマッチアップを繰り返したことで、上半身を巧みに使いながら完封する駆け引きと技術を体得。モンスター級のフィジカルにも磨きがかかった。

 その結果、「代表の右SB酒井」は定着し、ロシア大会を経て、森保体制でも絶対的な存在として最終ラインを担い続けたのである。

 昨夏の東京五輪のオーバーエージ枠に抜擢されたことを見ても、指揮官の絶大な信頼が窺える。しかしながら、五輪後に9年ぶりのJリーグ復帰を果たしてから、酒井は相次ぐ怪我に見舞われるようになる。

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 アジア最終予選でも重要視されていた2021年11月のベトナム・オマーンとの2連戦を欠場。今年1・2月の中国・サウジアラビアとの2連戦には復帰したものの、3月のオーストラリアとの大一番を再び怪我で欠場した。

 4試合が組まれた6月シリーズも手術で離脱を余儀なくされ、コンディション面が懸念される状態が続いているのだ。

 その間、高い攻撃センスを備える山根視来(川崎)が台頭。酒井のポジションを脅かそうとしているが、欧州5大リーグやCLで百戦錬磨の猛者たちと対峙してきた実績は貴重だ。まずは本番までコンディションをベストに引き上げることに集中してほしいものである。
 
 不安要素がないとは言えないが、本人は前向きだ。「今回のチームは熱量が凄い。海外でやっている選手も多くて、みんなで良い方向に進んでいこうと考えられる集団。自分が若くて自信のなかったブラジルの時とは全然違うと思います」と、若返った森保ジャパンに確かな手応えを感じている。

 彼らの野心やエネルギーを後押ししつつ、自身は「右サイドの壁」として、強豪相手に圧倒的な対人能力を見せつける。

 そして、落選した大迫勇也(神戸)や原口元気(ウニオン・ベルリン)、急逝した工藤壮人さんら同世代の盟友たちに勝利を届ける――。そんな勇敢な酒井宏樹の姿をぜひとも見せてもらいたい。

取材・文●元川悦子(フリーライター)